Day2
翌日。
その日の朝は何だかすっきりしていた。とても心地が良かった。
仮面が痛んでないかを慌ててチェックしたが特に問題はなかった。
ほっと一息つくと、持ってきていたパンを貪った。一応一週間分の食べ物は持って来ている。車に幾らか積んである。こっちでも食べれるものはあると聞いてはいたが万が一に備えてだ。
死ぬといってもさすがに餓死で死ぬのは困る。まぁ、どうあがいても人は最後に死ぬのだから死に方を選ぶ意味はないのかもしれない。でも、死ぬことは変えられないのだからせめて死に方ぐらい選ばせてほしいものだ…とも思うのだ。
パンを食べ終わると、私は真っ先に彼女の店に向かった。
「あれ!?もう来てくれたの?しかも仮面つけてくれてるし!!感謝感激電撃ショック!!」
微妙に違った気がしたがまぁいいか。
「そういえば、お前の名前知らないんだった。何て言うんだ?あぁ、別に言いたくないなら言わなくてもいいんだけど。」
「寂波 哀(じゃくなみ あい)ダッテサ!これからもよろしくな!」
「じゃあ、寂波。お前はなんで仮面をつけてるんだ?」
「もちろん、かっこいいからさ!あとはそうだな…仮面は顔だけを覆うんじゃなくて心も覆ってくれるんだ。つまり別人に生まれ変われるってことだな!」
「別人…」
「そうだ。嫌な自分を忘れて新たな自分になれるんだよ!すごい!めっちゃ画期的!!」
「悪かった。」
「はて?いきなりどした?」
「いや、お前と仮面のこと馬鹿にして悪かった。ちゃんと考え合ってのことだったんだな。」
「アタリマエダッテ!いや、分かってくれたらいいんだけどさ!うんうん、よかったよかった!じゃあ、仮面同盟に入ってくれる?」
「…まぁ、いいけど。」
「やったあああああああああ!!!アリガトウ!!」
「だから、その手を握ってブンブンするのはやめろ!」
「これも一種の感情表現だからユルシテ!」
「どう考えても謝ってるように聞こえないんだけど!!」
「ごめんごめん、ワルカッタッテ!これで仮面同盟の入盟儀式は終わり!」
「これ儀式だったのか…」
なんだろう。嫌なことを忘れて只々楽しい時間がそこには流れていた。
このまま時が止まればいいのに。そんなことを思ってしまった自分がいることに驚きを隠せずにいた。
「キミも一会員になったんだし名前を教えてよ!」
「冥堂 銀河。」
「へぇ~銀河クンって言うんだ。改めてこれからよろしくね!」
「お、おう…」
「じゃあ、踊ろっか!」
「…は?」
「儀式はまだまだ続くんだよー!」
「え!?さっき終わったんじゃなかったの!?」
「今度は仮面同盟恒例の仮面舞踏会ダッテ!」
「仮面舞踏会を恒例にしたいんだね…」
もう突っ込む気力も起きなかった。踊る前から疲労困憊でクラクラしそうだ。
「踊りは自由だよ!!さぁ!キミもヤッテミテ!」
仮面舞踏会とか言うからてっきり二人で優雅に踊るのかと思ったら…でもそれはこいつらしくないしな。
とりあえず言われた通りに、自由に踊ってみた。
あまり、運動神経はないので自信はなかったのだが…
「イイネイイネ!!ベリベリグッドだよ!んーでも何か足りない気がするんだよなぁ。あ!民族衣装だ!ちょっとマッテテ!すぐ用意するから!」
そういって店にダッシュで向かっていった。
「はいこれ!これはチョハっていう民族衣装だよ!ジョージアの奴なんだけどわりと最近復活してブランドなんかにもなっちゃったりしてけっこう今熱いよ!すごくかっこよくておしゃれだからキミに似合うと思うんだよね!結婚式に着るようになったらしいけどそんなのは今はどうでもいいよね!もとは舞台で踊るためのものだしってことではい!とりあえずキテ!」
「確かにかっこいいけどどこで着替えればいいんだ…?」
「ここに試着室があるからここで!」
店の裏に簡易的だが確かに試着室があった。
改めて見てみる。黒を基調とした日本でいう袴みたいなものだろうか。あとはセットで短剣がついている。これは見た感じ本物の様だ。
「これでいいか?」
「イメージ通りだよ!仮面とも相性バッチリ!じゃあ、一緒に踊ろう!」
なんかデートみたいと少しでも思ってしまった私は毒されてしまっているのだろうか…
ということでそこからひたすら踊り明かす羽目になってしまった。
「はぁはぁはぁ…もうヘトヘトだ…疲れた。」
「楽しかったでしょ!民族衣装を身に纏うと本当にその国の人の様に思えてくるから不思議だよね。」
彼女は全く疲れた様子を見せていなかった。いや、顔は見えないから本当は顔に出てるのかもしれないが少なくとも呼吸が乱れたり座り込んだりはしていなかった。彼女の踊っている姿は実際本当にその国の人に見えた…気がする。そもそもどこの国かすら分からないのだが。
「というか、民族衣装を着てるのにその国の踊りはしないんだね…」
「細かいことは気にしない!もっとおおらかに生きよう!」
なんでこいつはこんなに元気なんだ。
でも、その元気が全く嫌かと言われたらそんなことはなかった。
「じゃあ、その衣装は買い取ってもらうからね!」
「え!?聞いてないんだけど。」
「大丈夫ダッテ!会員限定サービスで安くするッテ!」
「…で、いくらだよ。」
「ずばり1万円!ブランド品だと思えば安いでしょ!」
…正直安いんだか高いんだか全く分からない。
「本当にそれだけの価値があるのか?」
「価値があるかどうかは自分で決めることだよ!」
「!」
突然確信を突くようなことを言われてドキッとしてしまった。
お前が押し付けたんだろ…とも言えなくなってしまった。
自分で今まで決めてきた結果が全て無価値だったのだ。
でも、実はもしかしたら価値あるものも無価値だと決めつけていただけなのかもしれない。
「買うよ。2万で。」
「2万?はて?おつりがいるかな?」
「おつりはいらない。まぁ、お礼というか…そう!入会金とでも思ってくれ。」
「…分かった。ありがとう!明日も来る?明後日も来る?」
「それもう毎日来てって言ってるようなもんだけどな。」
「…え、ダメ?」
「明日も行くよ。」
「わーい!やった!ベリーハッピーだよ!」
「じゃあ、また明日。」
「またキテ!待ってるね!」
夕陽に照らされながらこの格好で歩くのは少し気恥ずかしかったけど。
自分も価値ある存在なんだと錯覚させられてしまう。
存外身につけるものに宿る力は侮れないのかもしれない。
…なんて、ちょっと調子になりすぎたかな。
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