非日常:ダーティーバベルメンバー達との交流街道

第1話:仮面を纏う女

Day1

とりあえず奥まで来たもののどうしていいか分からず立ち往生していると…


「もっとミテ!こっちキテ!」


声のする方に振り向くとそこには仮面を纏った人がいた。まったくもって不気味だ。

白い仮面に黒い三日月の様な笑顔が描かれている。それは目も同様だ。よくあるオーソドックスな仮面だと思われるが、仮面をつけた人間がオーソドックスかと言われるとそんなわけはない。誰がどう考えたってアブノーマルだ。


「ボクの店にオイデ!きっと楽しいものが見つかるよ!」


ハイテンションな仮面人間に手を引かれ半強制的に店を訪れることになった。

まぁ、どこにいこうか悩んでたところだったし結果オーライだしいいか。


仮面人間の店には仮面と民族衣装が置いてあった。


水色のショートカット、そしてよく見るとエスニックなファッションをしていることにたった今気が付いた。あまりにも仮面の衝撃が大きすぎてそっちにまで目が行かなかったのだ。


「さぁ、どうする。好きにするといい!」


「その言い方は誤解されても文句は言えんぞ。」


「はて?何のことかな?」


さてはこいつ…馬鹿だな?


「じゃあ、ホントに好きにしていいんだな?全部ここのものを盗んで他のところで高く売っても、お前が男か女かすらわかってないがいきなり襲われてもいいってことだな?」


我ながらなぜこんなことに熱を入れて話しているのか。こんなに自分からしゃべっているのはずいぶん久しぶりな気がする。


「それはダメだよ!あとボクはオンナダッテバ!」


所謂ボクっ子という奴か。顔が見えないから何とも言えないが。


「キミもよかったら仮面付けてみたら?きっとその良さが分かると思うよ!」


眼帯の上から仮面ってどうなんだ…?


「いや、こんなのつけても気味悪がられるだけだし…呼吸しづらそう。」


「ちょっとマッテ!仮面って言っても色々あるんだよ!あと、遠回しにバカにしたでしょ!バカニシチャッテヒドイヨネ!」


そういうとぷいっとそっぽを向いてしまった。顔は見えないが絶対頬を膨らませている。なんだかこうしてみると案外お茶目な奴なのかもしれない。


「初心者にはこの仮面舞踏会でもお馴染みの蝶々型がオススメ!」


「別に仮面舞踏会に行ったことないし行く予定もないけど。」


「んもー!さっきからキミは文句ばっかりだね!ほらいいから試しにつけてミテ!」


「うわっ!ちょっと!」


彼女がもっていた黒い蝶々の形をした仮面を無理矢理つけられてしまった。


そして彼女に手鏡を渡された。


「自分のこと見てミテ!」


おそるおそる見てみると…やっぱりどうしても違和感があった。

この瞬間だけ、眼帯がなかったらよかったのに…そんな考えが脳裏をよぎった。


「…ごめん、私にはこれは似合わない。だからこれは返すよ。」


「……すごい。すごくニアッテルヨ!!!」


「え?」


彼女はただでさえテンションが高いのにもうその時のテンションと言ったら頭がおかしいとしか言いようがなかった。完全にお茶目の度を越えてしまっていた。


「その仮面はキミがつけてるベキなんだよ!これは運命の出会いだね!?そうなんだね!!素晴らしいよ!キミは初めてのお客さんだし特別にサービスしちゃう。それ、タダであげるよ。それならいいでしょ?」


「どうしてそこまで私にこれを?」


「はて?それはね、似合ってるからだよ。キミが選んだんじゃない。仮面がキミを選んだんだよ。」


「選んだのはお前だと思うけどな…」


「ともかく!それはもうキミのものだから!仮面は身体の一部!つけていれば心も変わるはずだよ!」


「本当か?こんなのをつけて変わるなら誰だってやって…」


「騙されたと思ってヤッテミテ!あっ、そうだ!キミ仮面同盟にハイッテミナイ?」


「は?仮面同盟?なんだそれ。」


「仮面を愛する仮面を身に纏う者のみが入ることが許された幻の同盟のことだよ!

ちなみにメンバーはボクひとりだけだよ……只今メンバー募集中だよ……」


こいつさっきまであんなにハイテンションだったのに急に暗くなったぞ。

さてはこいつ情緒不安定ってやつか。


「そんな同情を誘ったところで私は入らないからな!何かに縛られるのは嫌いなんだ。」


「ケチ。入らないとさっきのサービス取り消しちゃうぞ。」


「脅しはよくないんじゃないか。ま、気が変わったら入ってやってもいいけどな。」


「ホントに!?じゃあ、またキテ!待ってるよ!!絶対キテ!!!」


私の手を取りブンブンと大きく縦に振る。その顔は見えないけれどどこか嬉しそうだった。




私は彼女と別れダーティーバベルにある超格安の宿に泊まることにした。


もちろん他も眺めては見たものの、あの店と彼女のことがどうしても頭から離れず結局どこのものも買わなかった。いや、買えなかったのだ。


強烈な思い出が脳を侵食し始めていた。


あんなに馬鹿にしていたのに仮面を外せないまま眠りにつくのだった。

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