DirtyBabel

如月葡稀

序章:遥かなる虚無の中で

Prologue:虚無の中で生きる男

無意味だ。


無価値だ。


人も世界も動物も社会も会社も家族も友達も恋人も生も死も。


何もかもが無意味で無価値な存在なんだ。


無論、それは私自身にも当てはまる。


私、冥堂 銀河(みょうどう ぎんが)28歳は今日をもって仕事を退職してきた。


いたって黒でも白でもない普通の会社でそこそこの給料を貰っていたに過ぎない。


高卒からずっとそこで働いていたからおおよそ10年ほど経っているということになる。


だが、それに何の意味がある。何の価値がある。


私には残念ながらそれが見出せなかった。


この世界を見たくなさ過ぎて自分で片目を抉ったことがある。


おかげで今私は左目に眼帯をしている。所謂、隻眼だ。

別に中二病とかそういったものではない。


ならなぜ両方抉らなかったのか。そうすれば何も見なくて済むというのに。


答えは二つあった。一つは生活が出来なくなるというのと、もう一つは両目を抉ったところで無意味だと分かっていたからしなかったというのが大きな理由だ。



でも、もしかしたら…



適当にパソコンを弄る。暗闇のディスプレイに映る切ることを忘れた紺色の長ったらしい髪、紫の生気を感じない細い瞳、そして白い眼帯。はたから見たらこういうのを生きた屍というのだろう。そんな私は今、死ぬ方法を考えていた。


生きることも死ぬことも意味がないと思っている。輪廻転生という負のループが逃げることを許さない。あの世や天国とか地獄とかがあるかすらも怪しい。本当は楽園なんてどこにもないんだ。


それでも、生きているよりはましだと私の脳が判断したまで。

死んで21gの魂が消えてくれればそれが一番いい。それかこの世界に戻ってこれないようにこの地球ごと誰かが滅ぼしてくれればいい。


スイスの安楽死ツアー…70万もあれば条件付きではあるが人は楽に死ねるのだ。

よくこれを殺人だという輩がいるが双方同意の上ならそれは殺人ではない。優しい死神と言った方が正しいだろう。日本は延命治療やらの医療技術は発達しているが大切なところは何も進んでいない。


とりあえずスイスに行くか…


そうして行き方やらなんやらを調べて終えて、適当に掲示板を見ているとある単語が目に入った。


ブラックマーケット。所謂、闇市場である。


こういうのはネットにもあって、ダークネット・マーケットと言う。別名、暗号マーケット。特定のソフトがないと入ることが出来ない電子の海を放浪する。消えたり出たりのいたちごっこが繰り広げられている界隈でもある。俗に言う犯罪の巣窟とでも言うべきか。


この日本にも未だにそういったところがあるらしい。


もう死ぬ準備をし始めたところだというのに、なぜこんなものに興味を惹かれているのか自分でも意味が分からない。


そんなところに行ったとこで今更何かが変わるわけでもない。


でも、どうせ死ぬなら。


最後くらい自分の本能に正直になってもいいんじゃないか?


謎の気まぐれとやけくそによりそこでの情報をもとに山奥にある闇市場へと向かうことになったのだった。


退職金やへそくりやら貯金箱、ATMからかき集めたありったけの金を持って。


金は命より重いと誰かが言ったが、金という存在自体には何の価値もない。

取引できるものが存在して、取引してくれる人がいてはじめて金に存在価値がつくのだ。でなければただのコインや紙切れでしかない。


どれほど車を走らせただろうか。早朝から高速に乗り、もう二時間弱程たっただろうか。安いおんぼろでレトロな車がガタガタと車内を揺らす。


少し道に迷いながらも結局午前10時より前には到着することが出来た。


ここが闇市場…

看板にはダーティーバベルと荒々しい手書きの文字が書かれていた。

私が知らない新たな世界に…そう、まるで異世界に迷い込んできたかの様な。

そんな感覚に陥りそうになった。だがここはそんなファンタジーなものではなく間違いなく現実だ。期待と不安が渦巻くこの空間を閉ざす銀色のフェンスの様な門を開けて私は一歩その世界に足を踏み込んだ



……瞬間だった。



「ようこそお客様!」


小さな女の子だろうか?それも4人も一斉に私のもとに駆け寄って来た。どうやら私のことを歓迎してくれているらしい。


「ここはダーティーバベルです。基本は何をしても自由でございます。しかしただ一つだけ犯してはならない罪があります。」


「つまり、殺人だね!」


「とは言っても、あくまでここでしてはいけないだけで他の場所でするには我々は止めません。」


普通は逆な気がするがこの世界には普通何て概念は存在しなさそうだ。


「僕たちはね、パトロールしてるんだ。まぁ、何かわからないことがあったら何でもきいてくれていいからね。」


「あぁ、それと。この闇市場の奥にある塔には入ろうとしないで下さい。といっても入ろうとしても我々が止めるだけなので心配ないですが。一応。」


そういうことを言うと余計に入りたくなることをこの子たちは分かっていないのだろうか。


「じゃあ、楽しんでいってね!またね~!協定守って楽しいダーティーバベルライフを送ろうね~!」


そういうとバタバタと小人四人衆は颯爽と闇市場の方に駆け抜けて行った。


私も彼女たちが向かった方へ歩みを進めることにした。


ずらりと屋台の様なものが並んでいる。




さて…どこに行こうか。


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