2
高校の隣の駅からバスに乗ると、病院へはすぐに着いた。
とてもキレイな医療センターだ。
受付でいろいろ書かされたあと、もらった入館証を下げ、エレベーターで病室へと向かう。
「
顔を出すなり、ベッドの上から熱烈に歓迎される。
頬のテープは痛々しいが、思いの外元気そうだ。
「もう、心配したんだぞ」
「ごめーん。わたしもマジ焦ったわ。やべぇ、転生するって」
気を利かせたおばさんが病室を出ていくと、真緒の顔から笑みが消えた。
急に真顔になり、「それより」と話題を変える。
「昨日あのあと、指輪を気にしながら歩ってたら、いきなり知らない子に声かけられてさ」
「指輪?」
そっか、事故で、すっかり忘れてたけど、改めて見た真緒の手に、指輪はもうない。
「外れたんだ」
「ん、まあ……」
歯切れ悪くうなずいて、彼女は話を再開する。
「でね、紺のセーラー服におさげの、さえない感じの子だったんだけど、その子に『指輪を返せ』っていわれて──」
「それってつまり、その子の指輪だったってこと?」
聞き返すと、真緒は首を横に振った。
「知らない。でも、なんか面倒だったし、別に渡してもいいかなって。
ただ、あのとき抜けなかったでしょ。だから、外れたら必ず返すから、連絡先教えてっつったのに、あの子、無理矢理取ろうとしてきて、痛いっつっても全然聞いてくんなくて。
もめてるうちに足がもつれて、その子の方に倒れそうになって、ぶつかるって思ったのに、ナゼか身体をすり抜けちゃって」
「は?」
すり抜け?
「ホントだよ。ホントにするんってすり抜けて、車道に倒れて、そこにトラックが……。指輪はそのとき外れたみたい。倒れる寸前キラッて光りながら飛んでくの、なんか見た気がすっから」
一気に語って疲れたのか、真緒は大きく息を吐き、それから今度はおずおずと、探るように問いかけてくる。
「事故で、頭おかしくなったとか思ってる?」
「思ってないって」
あたしは、即座に否定した。
そりゃあ、変な話だとは思うけど、ウソついてるようには見えないし。
「ありがと。ずっと誰かに聞いて欲しかったんだ。家族にいったら別の心配されそうだしさ。今朝なんて、その子が夢にまで出てきて……」
「うーん……、その子が何者かわかんないけど、指輪ももうないし、大丈夫じゃない?」
「だよねぇ」
あたしに話してスッキリしたのか、真緒は再び笑みを浮かべた。
*
ここが現場か……。
住宅街にある二車線道路の歩道に立って、辺りをキョロキョロ見回してみる。
真緒の話が気になって、病院帰りに寄ってみたけど、路面に残るチョークの跡以外、事故があったことを示すものはない。
指輪も落ちてなさそうだし、女の子どころか、人の姿もほとんどない。
ちょっと拍子抜けしたとき、車道脇の植え込みの影から、ぬっと何かが現れた。
「うわぁ!」
可愛くない悲鳴を上げ、あたしは
一方、
──って、この人、こないだの……。
「
思わず口から飛び出た名前に、彼は一瞬キョトンとしてから、すぐに「ああ」と声を上げた。
「ヤスカタです。
「いえ、こちらこそ、スミマセン」
「いえいえ、こちらこそ本当に、驚かせてしまったようで申し訳ない」
JK相手にこの腰の低さ。
なんか調子狂うわ、この人。
「それで、ウ……石川さんは、こんなとこで何してたんですか?」
道端にしゃがみ込んでたみたいだけど。
「指輪を探していたんです。前にもいったと思いますが、
確かに、そんなこといってたっけ。
「じゃあ、貴金属の買い取りじゃなく、無くした指輪を探してるってことですか?」
「買い取り? まあ、必要とあらば買い取りもしますが、今は人に頼まれた指輪を探しているところです。
その方自身は入院されているのですが、大事な指輪を無くしたことをひどく気に病んでいるから、是非とも探して欲しいと、ご家族の方から頼まれまして。
似たもので構わない、という話でしたが、どうせなら本物を見つけて差し上げたいじゃないですか」
そりゃあそうだ。
「それで、これだと思うものを見つけはしたのですが、引き取りにいった者が、途中でうっかり無くしてしまって……。
本当に、どこへいってしまったんでしょうねぇ。誰かに拾われてしまったのでしょうか?」
拾われという言葉に、ハッとした。
まさかとは思うけど、違うとは思うけど、万が一ってこともある。
「あのっ、実は昨日、拾ったんです、友達が。青い石の付いた金の指輪を」
「えっ?」
「お探しの物かはわかりませんが、それ拾ったあと、ちょっと変なことがあって──」
ついでとばかり、あたしは真緒から聞いた話を、すべて彼に打ち明けた。
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