完璧な賭け
喫茶ミハスの伊刈の定席となった中二階に遠鐘と喜多が寄りこんでいた。伊刈が来るかと思ったのだが当てが外れて二人だけのコーヒータイムになっていた。
「最近の班長、どう思います」遠鐘が言った。
「どおって?」喜多が問い返した。
「なんか最終処分場を目の敵にしてるって感じしませんか」
「別にいつもどおりじゃないかって思うけど」喜多が答えた。
「そうですかねえ。不法投棄を厳しく取り締まるのがうちらの仕事ですよね。最終処分場をいじめてどうするのかって僕は思いますよ。それは環境団体とかに任せればいいんじゃないですか。うちらとしては最終処分場がなくなれば不法投棄が増えるだけですからね」
「環境団体のシンポジウムに出ることになったでしょう。それで調べてるんじゃないかな。エコユートピアもターゲットになってるらしいし」
「あそこは完璧ですよ。検査するまでもないです。あそこがダメならOKの処分場なんか日本中どこにもないです」
「そうかなあ。違法なことを何一つやっていない完璧な処分場ってあるんだろうか」
「それどういう意味ですか」
「廃棄物処理法ってそもそも守れないことを要求している法律なんじゃないかなって」喜多が鋭いことを言った。
「それ班長の受け売りだよね」
「ばれたか」
「喜多さんは班長に心酔してるからそう思うんですよ」
「遠鐘さんはどう思うの」
「法律違反のない処分場はもちろんありますよ」
「でも今までは一つもなかったですよね」
「アウトローの業者ばっかり検査してるからですよ。エコユートピアみたいなまともな業者は初めてでしょう」
「まあ確かに不法投棄に関与してる業者ばっかり調べてたからね。だけどどんな処分場だって埋立禁止の有害物質とか探せば必ず出るんじゃないですか」
「論理学的な議論を言い始めたら切りがないです。宇宙からは放射線が来てるんだから放射性物質だって調べれば出ますよ。現実的な議論として法律には基準があるんですから、その基準の範囲内なら合法と考えるべきでしょう」
「遠鐘さんは技師さんだからそうなりますよね」
「法律屋さんは違いますか」
「現実的な数字として完璧な処分場はあると思うんですね」
「もちろんあります」
「だけど班長が検査したら必ずどこかに違法な行為を発見できると思います。賭けてもいいです」
「賭けるなんて不謹慎じゃないですか。粗捜しをするなんて、それじゃ右翼と同じですよ」
「班長には内緒にしますから勝負しましょうよ。エコユートピアが完璧かどうか」
「わかりました。それじゃ勝負しましょう」
「何を賭けますか? ランチですか?」
「そうだな洗車当番ってのはどうかな」
「わかりました。受けて立ちましょう」
「喜多さんから先に賭けるって言ったんですよ」二人のひそかな賭けが成立したようだった。
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