第69話 撤退 『紅蓮』

  紅鬼あかおには太刀を通して伝わってきた感触に目を見張る!

「なっ……にぃ!! 」


 赤竜鬼せきりゅうきは打ち合いの瞬間に、太刀筋を変化させていた!

刃での打ち合いではなく、童子喰どうじくいの側面への一撃へと!

天叢雲あまのむらくもの刃は瞬時に軌道を変え、童子喰どうじくいの刀身を断ち切った!


そして、抵抗を感じることなく、刀身が切り飛ばされたという感覚を紅鬼あかおにの手へと伝えたのだ。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 魔法陣は破壊したが、眼下の鬼達は健在だった。

追撃する二人も無事だが、あの鬼をどう処理するか……

紅蓮ぐれんは、流星投擲ミーティア・ジャベリンを極小の槍へと圧縮しながら集束してゆく。

高密度のエネルギーを内包した槍を、己が身体と共に時空へと隠し、鬼達へと目掛け急降下した!


「奴らは強い! 今の俺じゃ厳しい…… タイミングを合わせて同時に放つ! 」


紅蓮ぐれんは四人の動きを目で追いながら、気配でも感知する。

意識下にマップを構築し、紅鬼と青鬼の位置、赤竜鬼せきりゅうき青竜鬼せいりゅうきの位置をマーキングした。

その中心に自分が降り立つタイミングと位置取りを考え、四個の点を追い続ける。

全てを、その一瞬に掛けて集中する!


「……そこだっ! 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


 青竜鬼せいりゅうきは連撃を繰り出す。

青鬼あおおにの目がその動きに慣れた瞬間に突きは突如、横薙ぎに変化した!

ただの横薙ぎではなく、まるで刀身が鞭のようにしなやかに波打ったのだ!


その異様な太刀筋に青鬼は驚愕する。

一撃が入るかと思われた瞬間!


キイーンッ!


此れまで体捌きで回避していた青鬼は、初めて剣で受けたのだ。


「ほぉ! 見事だ。 先の言葉は取り消そう! 一撃で殺しては詰まらん! 

たっぷりと愉しませてもらおう 」

青鬼は! 歓喜に顔を歪め叫んだ!!


「そうか、 では、ワシも本気で行くとしよう 」

そう答えると共に、鬼に向け闘気を煉る……

 青竜鬼せいりゅうきが手にする太刀は蛇節刀ダセツトウと言う。

所謂いわゆる太刀としての状態と、刃の部分を複数に分割した鞭状へと変形する構造を持つ。

また、闘気により太刀筋を操作出来るため、トリッキーな斬撃が繰り出されることから、凡庸な剣士ではかわす事も困難である。


 青鬼はソードブレイカーに似た大剣、喰切丸くいきりまる

峰の部分に櫛状の溝があり、その溝へと相手の剣をかませて折ることができる。

剣を折ると言うよりも、鋸の様な峰は肉を轢き切る目的に見える。


お互いの獲物が特殊な物であり、似た物同士に見える二人の顔は、凶悪な笑みへと変わった。


「同じ鬼か! ワシも愉しませてもらおうか! 」


青竜鬼せいりゅうき蛇節刀ダセツトウの切っ先を青鬼へと向けると、後方へ引き絞るような動作をとる。


対する青鬼あおおには、大剣喰切丸くいきりまる青竜鬼せいりゅうきへと突きつけると、刀身を横向きに掲げ、切っ先を床に向けると左手で刀身を支えた。

刀身を盾に見立てた受けの体制をとる。


穏やかな呼吸のみが響く。

青鬼あおおに青竜鬼せいりゅうきへと叫んだ!

「この一撃で終わりにする! 」


「ほう! この剣を受けきれるかな! 」

青竜鬼せいりゅうきは、引き戻した蛇節刀ダセツトウを弓を打ち出すが如く突き出すと同時に、青鬼へと一条の矢の如く鋭く踏み飛んだ・・・!!。


二人の剣が交差するかと思われた瞬間!


『そこだ! 』

突如、紅蓮ぐれん青鬼あおおにの背後へと現われた!?


両手を左右へと広げた先には紅鬼あかおにも居る!

鬼達へ目掛け、極小の槍へと圧縮・集束した流星投擲ミーティア・ジャベリンを、発射した!


紅蓮ぐれんには青竜鬼せいりゅうき赤竜鬼せきりゅうきに申し訳ないという気持ちは無い!

何よりも、国一つ…… ヤマトの国が無くなるかと言う方が大事だからに他ならない。

もしも、他国の運命が掛かっていたのなら気にしなかっただろう。


卑怯者と罵られ様とも…… 

今の紅蓮ぐれんには抗う術が余りにも少ないのだから。

「くっ! この制約さえ…… 」

言ってもせん無い事とは判っていても、つい口に出てしまう。


着弾と同時に、二人へと『俺は行くぞ! 』と声を上げ時空へと消えた。

若干の、いや、突き刺さる様な悔しさを胸に抱いて……


 青竜鬼せいりゅうき赤竜鬼せきりゅうきも突然の終幕に、思うところはある様だが……

「この程度では死ぬまい! 決着はまたの機会としよう 」

そう叫ぶと虚空へと消えた。


暫くして、高密度の暴焔が消え、ガラス化した大地に二人の鬼が佇む。


「ふむ、 惜しかったの。 だが、楽しみが出来たわい 」

「戻るとしよう…… 」

そう呟くと、彼らも虚空へと消え去った。

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