第68話 鬼達の攻防 『紅蓮』

 残された二人はお互いを観察していた。

対峙するは、美しい顔立ちに紅く染まる髪は燃え盛る火の如く揺らめく紅鬼あかおにと、赤竜鬼せきりゅうき


両者共に「鬼」と付くが、角があるのは紅鬼あかおにだけで、赤竜鬼せきりゅうきには角は無かった。

赤竜鬼せきりゅうき達の「鬼」とは竜鬼神から来ているものであるからだ。


「そこの女、 お前とは死合ってみたかったのだ。

……これ程早くに叶うとは、僥倖だ! 

この剣・・・へと受けたヒビへの借りを返そう! 」


「はて、何のことかな…… 戯言は良い、さっさと構えろ 」

赤竜鬼せきりゅうきは、低くゆっくりとした口調で返す。


「そうはやるな、この様な好機は久しくなかった!

存分に我を愉しませてくれぇ!! 」

紅鬼あかおにはそう言いながらも、のんびりとした態度で腰にいた太刀に手を沿え抜き放つ。

抜き放った刀身にはヒビなどは無く、美しい輝きを放っていた。


 紅鬼あかおにの、その表情には嬉しさが滲み出ていた。

目の前の赤竜鬼せきりゅうきが、剣士として自分と同程度か、もしかしたら、自分よりも強者か……

久しく出会わなかった好敵手。

自分よりも強い相手と刃を交える事への欲求が叶うかと……。


「…… あの太刀 」

赤竜鬼せきりゅうきは紅鬼が抜き放った刀身を眺める。

刀身に揺らめく僅かな魔力を感じ取り、呟いた。

魔刀まとうか 」


「ほう! 判るか。 だが惜しいな、こいつは、妖刀・・だ!

童子喰どうじくいと言う。 こいつはなぁ! 鬼を喰らう! 」

童子喰どうじくい、元の名は童子切り・血吸どうじきり・ちすいと言った。

鬼の世に突如現われ、鬼の刀匠により鍛えられ名を変じ妖刀となった。


「……ヒビなど無い、綺麗な刀身では無いか 」

赤竜鬼せきりゅうきは腰の刀に指を添えた。

天叢雲あまのむらくも、彼女の愛刀でやはり魔刀まとうである。


「こいつはな、鬼を喰らえば元通り、傷など無くなる! 」


「厄介な! 」


「ほう、 判るか!? 」


「切れ味の変わらぬ、 いや、喰らうほどに切れ味の増す刀など…… 断ち切るしかないな 」


「断てるのかな? その鈍らで 」

紅鬼あかおにはニヤリと笑う。


「ならば、試してみろ! その腕があるのならな 」

赤竜鬼せきりゅうきは腰を落とすと、腰に挿した鞘口を左手で握りつばへと親指をかけると、右手を柄へと添えた。


「さて、 女、ゆくぞ 」

紅鬼あかおには立合い、対する赤竜鬼せきりゅうきは抜刀術。


赤竜鬼せきりゅうきの左手が霞むと、鞘から抜き放たれた白刃消えた!

鞘を払うと同時に、鞘口にあった左手は右手の柄に添えられ断ち切る威力を増す。

抜くと言う動作は一瞬のうちに終わり、一撃へと変わる。


紅鬼あかおには驚愕した! 嫌! 歓喜に震えたのだ。

「おおおぉ! これ程とは! 」


剣で受け流すことをぜず、紅鬼あかおには体捌きでかわしに掛かる。

しかし、赤竜鬼せきりゅうきが逃がす筈は無い、紅鬼あかおにへと素早く迫り、二の太刀で相手にとどめを刺す形に持って行く。


煌く白刃に、体捌きでかわし続ける紅鬼あかおには、決して刃を交えようとはしない。


「…… 断ち切りに気付いたか 」

赤竜鬼せきりゅうきは紅鬼を睨み、呟いた。


「嗚呼! 鈍らと言ったが、前言は撤回しよう! 

その刀は厄介だな、 打ち合うと断ち切られてしまう……か 

だが、このままでは埒が明かないのも事実。 

さぁて、勝負と逝こうか! 」


紅鬼あかおに童子喰どうじくい、を上段へと構えた。


赤竜鬼せきりゅうき紅鬼あかおにを眺め、上段から一直線に刃を振り下ろしてくるであろう紅鬼あかおにに対し、天叢雲あまのむらくもの刃を合わせることで断ち切ることを目論むと、斜め下からすくい上げるような一撃を放った。

刃が打ち合ったかと思われた瞬間、天叢雲あまのむらくもの刃が消え去った!!


紅鬼あかおには太刀を通して伝わってきた感触に目を見張る!

「なっ……にぃ!! 」


赤竜鬼せきりゅうきは打ち合いの瞬間に、太刀筋を変化させていた!

刃での打ち合いではなく、童子喰どうじくいの側面への一撃へと!

天叢雲あまのむらくもの刃は軌道を変え、童子喰どうじくいの刀身を断ち切った!


そして、抵抗を感じることなく、刀身が切り飛ばされたという感覚を紅鬼あかおにの手へと伝えたのだ。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 魔法陣は破壊した、しかし…… 眼下の鬼達は健在だった。

追撃する二人も無事だが、あの鬼をどう処理するか……

紅蓮ぐれんは、流星投擲ミーティア・ジャベリンを極小の槍へと圧縮しながら集束してゆく。

高密度のエネルギーを内包した槍を、時空へと隠し鬼達へと目掛け、急降下した!

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