第67話 共闘 『紅蓮』

 アロイス帝国の北西にある岬で、紅蓮ぐれんは高空に浮かびながら眼下を眺める。

その大地には魔法陣が描かれ、異様な祭事・・が行なわれていた。

 

 蠢く肉塊…… 腐臭を噴出し次々と融合していく人ならざるモノ。

吹き上がる腐臭を受け、紅蓮ぐれんは顔を顰めた。


肉塊が融合すると、大型海魔類であるクラーケンやリバイアサンの生ける屍アンデッドが生まれ出でる!


こんな事をする奴らは、碌な考えを持ってはいないだろう。

造り出したそれの…… 生けるアンデッドの使い道など、決まりきっている。


『これで海を渡るつもりか…… ゴブリンを乗せて。 

残さず焼き払うしかないかな…… 』  

紅蓮ぐれんは眼下を睨み、魔法を行使した!!

使う魔法は広域殲滅魔法、それも高位階の魔法である


流星投擲ミーティア・ジャベリン!! 』

宇宙そらより、高温のガスを纏った流星が、一条の槍となって地上へと堕ちて来る!

目標へ到達すると、その衝撃と共に高温のガスは煉獄に変わった。

衝撃は一点に集中することで、威力を増し中心の温度を極限まで高めてゆき、残されるのは、高圧力と高温によりガラス化した大地だけになる。


魔法陣は破壊した、しかし…… 鬼達は健在だった。

追撃する二人も無事だが、あの鬼をどう処理するか……


紅蓮ぐれん流星投擲ミーティア・ジャベリンを極小の槍へと圧縮しながら集束してゆく。

高密度のエネルギーを内包した槍を、時空へと隠し鬼達へを目掛け急降下した!


    ◇    ◇    ◇    ◇


 地上にて対峙するは、先の二人と二体の鬼。

一体の鬼は美しい顔立ちをし、紅く染まる髪は燃え盛る火の如く揺らめく。


だが、もう一体は異形の者であった。

先の鬼とは違い、青き顔をした般若の如き面相である。

髪は無く、禿げ上がった頭部からは歪な角が生えていた。

容姿の異なる二体には共通した特徴が見て取れる、頭部に在る角の数が三本。


余りにも違う姿から違和感を感じた二人は、警戒から距離をとり対峙した。


「そこの女、 お前か…… この剣へとヒビを入れたのは 」


「答える義理は無い 」


「まぁ、死合ってみれば判るか、どうでも良いしな 我は紅鬼あかおに 」


「我は青鬼あおおに、 是非とも、愉しませてくれぇ~!! 」


「青! お前は青いのを頼む、私は紅い奴をやる! 」 

先の二人は、女を赤竜鬼せきりゅうき、男を青竜鬼せいりゅうきと言った。


「判り申した、 同じ鬼かぁ! ワシも愉しませてもらおうかぁ! 」

青竜鬼せいりゅうきは腹の底から笑った! 強敵が目の前に居る事に!


赤竜鬼せきりゅうき、は思う、

「やはり…… 青は、ただの脳筋なのだろうか? 」


 愉しげに笑い出した青竜鬼せいりゅうき、その表情が一変して殺意に彩られる。

虚空より一振りの刀が現われ、青竜鬼せいりゅうきはそれを手にすると、鞘から抜き放ちその切っ先を青鬼へと突き出した。


切っ先を突きつけられた青鬼あおおにが、愉しげに嗤う!

片手に下げた大刀を無造作に持つと、それを青竜鬼せいりゅうきへと突きつける。


「お前の相手は、この俺か? 永く愉しませて貰えると良いが、無理だろう! 

せめて、一撃で死んでくれるなよ 」

と挑発した。


青竜鬼せいりゅうきは油断など決してしない。

脳筋と揶揄される事も度々あるのだが、戦いを辱める行為は決してしない。

それは、他の竜鬼りゅうきと呼ばれる者達もだ。


青鬼に正対し、青竜鬼せいりゅうきが正眼の構えをとる、穏やかな呼吸のみが響く。


青鬼はソードブレイカーに似た大剣を右手に掲げた。

特殊な剣であり、名前の通り剣を折る事をも盛り込んだ物である。

峰の部分に櫛状の溝があり、その溝へと相手の剣をかませて折ることができる。

ただ、良く知られた小型の物と違いその剣は大型だった。

剣を折ると言うよりも、肉を轢き切る目的に見える。

まるで鋸の様な峰をしているからだが……。


「一撃で死するか…… ならば、その剣で試してみろ! 」


青竜鬼せいりゅうきは、突きつけた刀の切っ先を引き戻しながら、青鬼へと鋭く踏み込んだ。

続けざまに放たれた数発の突きは、ことごとく青鬼の間接を狙って放たれたのだが、大きな身体の割りに素早く柔軟に動き、それらを全て回避する。


「どうした? 当たらぬぞ 」

青鬼は更に挑発する。


青竜鬼せいりゅうきは、その様な挑発も気にせず連撃を繰り出した。

数発の突きは突如、横薙ぎに変化した!

ただの横薙ぎではなく、まるで刀身が鞭のようにしなやかに波打った!


その異様な変化に青鬼は驚愕する。

一撃が入るか! と思われた!


キイーンッ!


此れまで体捌きで回避していた青鬼は、初めて剣で受けたのだ。


「ほぉ! 見事だ。 先の言葉は取り消そう! 一撃で殺しては詰まらん! 

たっぷりと愉しませてもらおうかぁ! 」

青鬼は! 歓喜に顔を歪め叫んだ!!


「そうか、 では、ワシも本気で行くとしよう 」

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