第66話 脱出 『紅蓮』

 刹那、横合いから銀扇が舞った。


キンッ! 


後と少し…… かなりヤバかった!


『誰だ? 今助けてくれたのは…… 』

今は考える時ではない、意識を切り替えると追撃を振り切るべく行動する。


紅蓮ぐれんは数度の転移トランスポートで何とか逃げ切った。

「角が三本の鬼? 」の剣戟をかわし…… いや、かわし切れてはいなかったが!


『やはり……今の状態では厳しいな 』

自身に課せられた制約に歯噛みする。


紅蓮ぐれんはアロイス帝国王城地下にある、石造りの牢獄からの脱出に成功した。

本来なら長距離のジャンプを敢行する所だが、もう一箇所確認したい場所が有ったのだ。

あんなヤバイ状況の後であっても、確認せずには要られなかった!


紅蓮ぐれんもはじめは気づかなかった、脱出のために数回の転移トランスポートをした際、異様な波動を感じたからだ。


危険度が上昇する行為なのだが……

『あれはヤバそうだ! 流石に確認しない訳にはいかないよな。

それに…… 王都には人が居たけど、それ以外には人の気配がまるで無い…… 』

これは異様な事だ。 これだけの国土を持ちながら、人の気配が王都にしか無いのだから。


紅蓮ぐれんは波動の元、アロイス帝国の北西にある岬を俯瞰していた。


高空に浮かびながら眺める。

空は竜種の領域だが、短時間ならば問題はない。

『エルマーと言い…… この国の人間。 いや王族か? 何を考えている! 』


大地には魔法陣が描かれ祭事・・が行なわれていた。

ただの祭事である筈が無い、蠢く肉塊…… 腐臭を噴出しながら融合していく。

かなりの上空に居る筈の紅蓮ぐれんにも腐臭が届く程だ。


そこに蠢くのは生ける屍アンデッド

しかも、海に棲まう大型海魔類であるクラーケンやリバイアサンの生ける屍アンデッドだった。


死霊魔術ネクロマンシー…… は何処だ!? 』


アレだけの規模と強大な大型海魔類を制御下におくなら、相当数の術者が必要になる筈なのだが、辺りには見当たらない。


死霊魔術ネクロマンシーは万能では無い。

対象となる屍の力・・・を、術者自身が上回らねば使役する事自体が不可能だからだ。


 竜の屍を人の死霊魔術師ネクロマンサーが見つけたとしよう。

只人では魔法が破綻し自身に跳ね返ってくる。

竜すら屠れる程の力を、術者自身が備えねば魔法の効力は発現しないのだ。

 だが、数に対しては、その前提は覆されるため死霊魔術師ネクロマンサーは重用される事が多い。

屍の力に対して優位であれば良く、屍の数は関係なく、その屍に対して力が勝るのなら、数に上限は無く使役可能なのだ。

ただし、使役可能な数は自身の魔力量が上限となり、対象を生ける屍アンデッドするのに必要な魔力量に乗じる。


其の前提から考えるに、眼下の状況は異常であった。

確認できる大型海魔類であるクラーケンやリバイアサンが其々二十体は居るのだ。


只人の死霊魔術師ネクロマンサーが、合同で魔力融合などを使ったとしても数百人規模の人数が必要な筈だった。


『このまま放っておく事も無いな。 

一段上げないとキツイか? でもそれが今は限度だ 』

紅蓮ぐれんは、自身に課した制約の解除に思い悩む。

白銀しろがねより厳命されている事もあり、上げられて二段階……

それ以上は本来の姿へと戻らねばならず、それは許されてはいなかった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


紅蓮ぐれんを手助けした二人は南西の岬付近に居た。


「不味いな…… 」

眼下の魔法陣を眺め一人が呟く。


「だが、今なら何とか間に合うだろう? 」 

もう一人が、先端が欠けた銀扇を眺めながら呟く。


「うむっ、たが…… 呼んだ方が良いだろう 」


「仕方があるまいな。 奴らは飛べぬのだから、上空より雷撃を打ち込むか? 」


「今呼んだぞ。 五分もすれば着くであろう 」


「おい! ……先程の小僧が其処におるぞ! 」


「ばかな! あの程度を捌けぬ奴が…… か? 」


「仕方が無い、行くぞ 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


ふと、視線を感じた!

そちらへ目を向けると二人の人影を捕らえる。


『よぉ! さっきは助かったよ 』


「礼には及ばぬ。 それよりも、すぐに此処を離れろ 」


『う~ん。 それは了承できないな。 アレを放っては置けないからね 』


「それには同意するが…… 御主の力では無理なのでは無いか? 」


『良く判るね…… でも、もう少しなら上げられるかなぁ 』


「ならば、早くしろ。 二つほど近づくモノが居るようだ 」


『一人はあの鬼・・だね…… 』

紅蓮ぐれんはマズッタと思う。 さっさと済ませれば……


「彼奴は我らが抑える。 さっさと片付けろ! 」


『じゃぁ……お願いするよ。 大きな塊打ち当てるから注意してね! 』


「「行くぞ! 」」

二人は近づくモノ……鬼の元へと向かった。


『さてと、逝きますか! 』  

紅蓮ぐれんは眼下を睨み、魔法を行使した!!

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