第65話 ヘルヴェスト連邦へ『紅花』

 話は少し遡る。 

紅蓮ぐれんがエルマー王国でフレイアと出会い、その後アロイス帝国へと向かった頃へと。


 紅花べにばなは一人ヘルヴェスト連邦首都へと向かっていた。

マリアからの親書を懐にしのばせ、古き友人の元へと……。

 

    ◇    ◇    ◇    ◇


 ローベンシア王国とヘルヴェスト連邦は、その境界を「エルベスト山脈」により遮られ、東のビフレスト山脈と並び越境も困難な天然の要壁と評されている。

 

 ヘルヴェスト連邦へと最短で入国するなら、「エルベスト山脈」に唯一つある渓谷・・・・・・・を辿るルートになる。

 ただし、ヘルヴェスト連邦の中央府である「アルヌス」へと向かうのなら、エルマー王国経由の弾丸列車バレットラインで迂回して行く方が時間的には早い。


しかし、紅花べにばなはエルベスト山脈越えのルートをとり、国境にある「国境都市・・・・エルベ」経由で入国をした。

 エルベには、使われる事の無かった弾丸列車バレットラインの駅が今も残っている。

使われる事が無かったのは「ローベンシア王国」との間だけの事で、国内の各都市へと向けた弾丸列車バレットラインは営業をしていたのは当然の事だ。

 ヘルヴェスト連邦の国土は七地域に分割されており、六個の国の中央には中央府「アルヌス」がある。

六個の国と中央府「アルヌス」は隣接し、それぞれの首都間は弾丸列車バレットラインで繋げられていた。


 ヘルヴェスト連邦は六国家の集合体であり、連邦代表である首相は八年ごとの投票で六ヶ国の首領の中から選出さている。

国家の指針等は中央府「アルヌス」にある連邦政府が起案し、六ヶ国の協議により決められる。

 現首相は「ジークフリート・ファイン・Y・バッハ」と言い、ヘルヴェスト連邦首相にして現役の勇者・・・・・でもある。


 ヘルヴェスト連邦とローベンシア王国とは古くからの同盟国であり、王族同士も他国と比較すれば良好な関係であった。

特に現首相とは縁戚関係であることが、その理由の一つでもある。


 両国の関係が良い事もあり、それほど厳しい入国審査が行なわれ事は無い。

とは言っても、身元がハッキリした者でなければ即時入国とはなら無い。

紅花べにばなはマリアからの親書を携えており、所謂特使・・待遇になっていた事もあって、すんなりと入国し目的地へと向かう事が出来た。


紅花べにばなは、エルベ経由で一箇所寄り路をする。

『この国へ来るのも久し振りね。 あの子は元気かしら…… 』

昔を懐かしみ、弾丸列車バレットラインの車窓から景色を眺める……。

列車は国境駅・・・・エルベから首都「ニーモ」へと向かっていた。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 紅花べにばなは短い時間ではあるが、ニーモ王国の首都「ヘキサライト」までの列車旅を愉しんだ。

普段とは違う、淑女然とした出で立ちだ。

今日は、漆黒の髪を束ね後頭部でまとめたシニヨンにしていた。

紅い瞳をした美しい顔立には、銀縁の眼鏡を掛けており、出来る淑女を演出している?

服装はソフトな感覚の大きめなリボンが胸元にあるブラウスで、ボリューム感のあいるシルエットが女性らしさを際立たせ、タイトスカートでセイクシーさもアピールしていた。


車窓を眺めながら、

『こんな穏やかな時間はさとる達と出合ったからなのだろうか?

ただ…… こんな時は長くは続かないのかしらね 』

陰鬱な思考をした事に溜息をつく。 


『これも沙弥華さやか達の影響かしら 』

と呟き、気分を切り替えた。


目指すのはニーモ王国の首都「ヘキサライト」郊外にある離宮である。


 先方へは事前に連絡をしてあり、駅には既に迎えの車が到着していた。

紅花べにばなは目印となる赤い花束を抱え、純白のリムジンへと歩み寄る。

車外には黒のスーツ? にサングラスを掛けた三名の男性が立ち、リムジンの辺りを警戒していた。

如何にもSPだと言う様な身形の三人に軽く挨拶をする。

と、其の内の一人が歩み出て車内へと丁重に案内された。


紅花べにばなは『おや? 』と疑問を感じた。

『(ここまで警戒の必要があるのかしら? 奴らに深くまで入られているのか…… それとも別の理由? )』

そう考えながら乗り込むと!!? 車内には意外な人物が待っていた。


「お久し振りです。 伯母上に代わりお迎えに上がりました 」

その人は、「ラインハルト・ファイン・Y・バッハ 」ニーモ王国の現国王であった!

SPが車内に戻るとリムジンが目的地へ向けて走り出す。


 地球にある一般的なリムジンとは大きな違いが有った。

ショーファーの隣がSPなのだが、最後部にもSPの座る席が設けられている。

リムジンとは、元は馬車の形式の一つであり、御者と客室の間に仕切りがあるのだ。

この世界の物は、後部にも客室との間に仕切りがあり、後方の防御や追突などからの隔壁として機能させていた。

魔法的防御も当然装備されており、客室は堅牢な造りとなっている。


当然であるが、離れた場所にもSPの車両が随伴していた。

見た目は一般車両と変わらないのだが、それは見た目だけであり当然中身は別物で有る。


『良いのですか? 国王陛下が自ら出迎えなどされて 』


「たまには息抜きも必要でしょ? それに懐かしい貴女を迎える役は、他に任せたくはなかったのですよ 」

ラインハルトはそう言いながら紅花べにばなを見詰めた。


「それに、伯母上に会う前に少しお話したい事もあったのですよ 」

ラインハルトは真面目な顔で告げる。


『では、 到着までお話を聞かせて下さいね 』


到着までの短い時間だが、二人は昔話をはじめた。

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