第53話 この世界の逝く先(上)

 国境から戻ろうと愛車を出したのは良いのだが、困った。

沙弥華さやかが包まれたまゆを後部座席に載せるとしても、フレイアが魔導騎士シュバリエのままではルーフキャリア位にしか乗せられない。

白銀しろがねは現在…… お嬢様・・・状態なので良いのだが。


白銀しろがね、フレイアだけどさ、流石に時空庫・・・に仕舞うのは不味いよね? 」

フレイアとはお互いに敬称を抜きに呼び合うことにした。


『それは…… 不味いと思うぞ! フレイア殿が一撃死するだろうな 』


『ちょ、ちょっと! サトル!? なに物騒なことを言ってるの。

これに乗るために、小さくなれば良いのでしょ? 』


「そうなんだけど… もしかして小さくなれるの? 」

 

『この子の魔力量なら……、 大丈夫ね。 すぐやるからちょっと待って 』


そう言うと、魔導騎士シュバリエがなにやら光り出し。

次の瞬間、目の前に小さな女の子が現れた!?

お嬢様バージョンの白銀しろがねと同じ位の身長だが……

元の姿ではなく…… 色々な所が、少し縮んだ???


『・・・・・サトル!? なにやら不埒な事を考えたわね! 』


『ほほおぅ! 特殊魔法か、流石は上位の聖霊と言うことかの 』


「魔法? に聖霊? 竜種でしょ? 」


『我等と同じ聖霊だぞ、空間魔法と聖霊の特殊魔法の複合だな 』


白銀しろがね殿は流石ね! 』


「どういうこと? 」


さとる殿、移動しながら説明をしようと思うが、良いか? 』

車に乗り込み移動しながら説明を聞いく事にした。

フレイアは後部で沙弥華さやかが包まれたまゆを押えてくれている。


『では、空間魔法からいくぞ。 

簡単に言うとだな、時空には時間の影響を受ける場所と受けぬ場所があるのだが、さとる殿の時空庫は時間の影響を受けぬ、時の停止した空間になる。


 以前説明をしたと思うが、リリスや紅花べにばな含め我ら四人の本体は、今のフレイア殿と同様に聖霊結晶になる。

そこまでは良いな?


 今現在も、本体である聖霊結晶は時間の影響を受ける時空間に存在するが、目の前に居る我も同時に存在しておる。

この実体は聖霊の特殊魔法により顕現しておるのだよ。 

当然痛みもあれば損傷もするが、我の場合は聖霊結晶が時空間にあるでのでな、ちょっとやそっとでは死にはしないぞ。 

我を倒すには、この実体を通して時空間にある結晶を破壊せねばならん。 かなりの難易度だな。


フレイア殿の場合はそれの応用だが、魔導騎士シュバリエごと聖霊結晶を時空間へ移動し、特殊魔法により、この実体を顕現しておるのだな 』


『私の場合は、魔導騎士シュバリエごと聖霊結晶を破壊されると不味わ。

それと、種族は竜神種で竜種とは位階・・が違うの。 

白銀しろがね殿と同じ位階の聖霊よ 』


「位階? 竜と竜神? 」


『その辺は落ち着いてから説明するわ、 少し疲れたみたいで……眠い……の 』

沙弥華さやかを抱き締め眠ってしまったようだ。


そのまま、目的地である首都ヤマトを目指した。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 戻って早々マリアに怒られた! 目の前で泣き出されたのには……正直まいった。


 現状の説明のために会議室へ移動し、国境での事とフレイアの事について説明をはじめる。

目の前にはマリアさん、サリアさんとタケル伯父さんだけが座っているが、他の武官などは同席していない。


こちらは、白銀しろがねに、フレイアに俺だ。

リリスは沙弥華さやかの側に居て貰っている。

マリアの計らいで寝室でまゆのまま休ませているからだ。

目覚めた時に一人では心細いだろう。


「さて、フレイア殿と言ったか、これは身内の相談事だとでも思って気楽にして頂きたい。

堅苦しいのは苦手でな。 宜しく頼む。

私がタケル・S・ヤマト・ローベンス、タケルで構わない。

真ん中がマリアで端がサリアだ 」


「フレイア様、ようこそ。 気楽にして下さい 」

マリアが告げると、サリアも続く。

「そうよ、気楽にしてね 」


『では、お言葉に甘えさせて頂きます。

私はアガルタ大陸の竜神族の長が娘、フレイア・アース・ヴァルキュリエ、フレイアと呼んで下さい。

 

先ほど、ヘルヴェスト連邦との国境付近でさとるさん達に助けて頂きました。 

そのままなら、恐らく命が無かったでしょう。 

その後は、竜種による蹂躙が起こったと断言できます。


色々な意味で三人には救われました。

改めて、感謝を。 さとる白銀しろがね殿ありがとう 』


『フレイア殿、何があったのだ? 竜神種が人種に捕まるとは考えられぬ 』


「母の敵と言っていたけど 」 

竜種による蹂躙!?


『先ずは、事の発端からお話しします 』

そう言ってフレイアが話はじめた。


 彼らの種族は北のアガルタ大陸を居としている。

基本的に他の大陸へは不干渉としているが、この世界への悪意に対しては例外であるそうだ。


『今から一年ほど前に事が起きました。 竜種の捕縛…… いや、狩です。

皆、最初の頃は気付かなかったのです。

よもや、竜を狩る馬鹿・・が現れるとは思いもよらなかった、それは巨神種も獣神種も同じだったようです 』


「フレイア殿、竜神種に巨神種、獣神種までもが襲われたと?

馬鹿な! 考えられん、神に挑むのに等しい行為だぞ 」

タケルはその発言に驚きを隠せず問いかける。


『そんな馬鹿は居ない、私達もそう考えました。

きっと他の神族によるものだと。

確かめるために南のウトガルズ大陸へと特使を派遣しました。

しかし、そこで地の神族も襲われていた事実を知ったのです 』


『フレイア殿、1年前と言ったがその間は大きな動きが無かったのか?

あまり世界が乱れた様には感じなかったのだが 』

白銀しろがね達の位階になると、世界へ対しての害意など世界が乱れると啓示があるそうだ。


白銀しろがね殿、極局地的に行なわれたため私達も、他の神族も気付くのが遅れたのです。

巧妙な結界が張られ、神ですら欺いたのでは無いかと 』


『うむ、それで啓示がなかったのか? 』


『その辺は、他の神族も判らないと 』


「フレイア様。 誰が、何のために行なっていたのかは判ったのですか? 」

マリアが不安げに確認をする。


『首謀者は既にこの世界には居ないのです。

捕らえる前に他の世界へと跳躍してしまったと報告を受けました。

ただ、不可解にもメッセージを残していたそうです。


しかし、扇動者は残りました。

扇動者はアロイス帝国の中枢食い込み、エルマー王国を尖兵にして東を目指しています 』


「フレイア殿、首謀者とは? いったい 」


『他の世界より来た人ならざる者達。 メッセージにはこう綴られていました。

「この世界へは、私達が味わった苦痛の代価を支払ってもらった。

あとは勝手に愉しんでね! 」

詳しくは判りません。

本当の事なのかさえも……。

しかし、このメッセージを信じるなら。

この世界へ混乱を計画した者達はもう居ない事になります。

ただ、確認する手立てはありませんが 』


場に暫しの沈黙が訪れた……。

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