第18話 予想外の大物!?

 既にヒットから既に四十分が経過していた。


吐き出されていたラインも、ほとんどがリールに巻き取られている。

やっとの事で右舷前方の水中に巨体を確認できた。


 綺麗な水質のせいか魚体がはっきりと確認できる。


「マジか……相当にデカイぞ……」


どう見てもカヤックと同じくらいありそうだ、このカヤックは長さが3.7メートルほどある。

一目見た感想はと言うと、普通なら

「ラインブレイクして、逃した魚は大きかった! 」

と言う結果だよね。と本当にそう思う。


 見惚れるほど鮮やかな、コバルトブルーの魚体が水面下に横たわっている。

ランディングをどうしよう! と考え、あと少しと思った時、視線が合った気がした。

「まだ、目が死んでない!! 」

もうひと暴れあるだろう予感がした。


 気引き締めラインに集中すると、途端此方へ向かって来る気配がした!

まずい! ふねの下へ潜られたらラインが! 刹那の瞬間思考した。


「リリス! 今すぐ、ふねを後ろへ押してくれ! バックだ! 」

リリスへふねを押して動かすようにお願いする。

リリスは力持ちだった。きっと出切る筈。


『了解なのです! ふね)を後ろに下げて、下に潜らせなければ良いのですね 』

そう言って操船をしてくれた。


「リリス頼む! こいつは逃がしちゃいけない気がするんだ。 予感だけど」


『マスター、お任せなのです! 』 


懸念していた危機的状況を、リリスのお陰で回避する事ができた!。


 まだ、奴は諦めていない! 此方へ突進してくる! 

ラインのテンションを無くさないよう集中する、ロッドワークを屈指してファイトの再開だ!。

ふねの事はリリスを信頼してお任せだ。 

彼女ならやってくれる!


 数度の突進を何とかなす事で、奴の体力を大分削れたようだ。

最後にもう一発あるか? と思った瞬間、沖合いへ向かい走り出した!


「不味い! 逆を突かれた! 」 

すかさずドラグをゆるめ負荷を減らす。


「間に合った! 」


ラインは結構持って行かれたが、最後の足掻きだったようで動きが止まった。

ポンピングとリーリングを繰り返し、既に五十分が経過していた。


  再び横たわる魚体を視界に納めた。

奴の目には、先程までの気迫は感じられない。

これでランディングができそうだが……。


「どうしよう……」


『マスター? 後はランディングと言うのでしたか? 捕獲だけなのですよね? 」


「うん、そうなんだけど……この大きさじゃネットは元より、ハンドランディングなんてしたら転覆するよね 」


『なら、問題ないのです! 私が持ち上げるのです! 』 


「持ち上げる? 」

そう言った……。

確かにリリスは力持ちである。

駄目元でやってみるか、と覚悟を決める。


「お願いするよ。 顔を水面まで引っ張り上げるから、掴見上げてくれるかな? 直ぐに時空庫へ仕舞ってしまうから 」


『マスター! 任せるのです! 』


ロッド操作で船縁まで寄せ、鼻先が水面に出た瞬間「ガッシッ!」と音がしそうな勢いでリリスがハンドランディングした!。


「すげ~…… 」

 

魚よりもリリスが凄い……!


ほおけるのは後回しだ! 

ラインをすぐにカットし時空庫へ仕舞った。


リリスとハイタッチし、急いで沙弥華さやか達の待つ岸へと進路を向けた。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 沙弥華さやか達の居る場所へ上陸し、温かいお茶を頂いくと疲労感がドット押し寄せて、思わずへたり込んでしまった。

肉体的と言うよりも精神的な疲労だ。

あんな大物に緊張するなと言う方が無理である。


「お兄ちゃん凄かったね! 一時間ぐらい格闘してたんじゃない? 」


AR表示にはヒットからランディングまでの所要時間が表示された。


「うん、一時間二十五分十五秒だって。

兎に角疲れた。 ただ、リリスのお陰でキャッチ出来たから、一番の功労者はリリスかな 」


『マスター。 大したお手伝いはしていないのです 』


「いやいあぁ! 最初の突っ込み。 あの時に普通なら終わってるよ。

リリスがスキッパーをしてくれなければラインブレイクで終わりだよ。

それにランディングもね。

手が無かった訳じゃ無いけど、厳しかったのは事実だよ。 本当に有難う 』


『えへぇ。マスターに褒められて嬉しいのです』


 手は無い訳では無かった、心の師、三◇◇平さんがやった方法が。

ただ、ふねより大きい魚だと抱き取り(抱き捕り)の方が確実かな?

と思考が逸れた所で、白銀しろがねから魚種を尋ねられた。


『悟殿、先程の魚だが名は何と出ていた? 』

白銀しろがねが怪訝な顔? をして尋ねてきた。


「ちょっと待って……」

AR表示に種別確認を確認する。


「魔種 オリハルコン種 キング チヌーク   三メートル七十七センチ」


『やはりか。 魔物化した魚の一種だな。

非常に珍しい貴重な種だぞ! (何故この湖に? との疑問はあるが)』


「シロ君、魔物化した魚?」


『そうだ、魔物化したものだな。 頭に魔種と付くのが特徴だ。

あと種別にオリハルコン種とあるだろう、それも特徴だな。

通常は種の後に個体名が表示される。「ミスリル ソード サーモン」と言うようにな。

通常なら「オリハルコン キング チヌーク」となる訳だが、それだけでは無くてな、そう単純な話で済まぬのだよ 』


「そうなのか?」


『マスター。 希少金属の名称は通常下位の物が付きます。 一般的にはシルバーやゴールドが普通です』


『さよう、ミスリルやオリハルコン、ダマスカス、アマルガムなどは滅多に捕獲されぬ 』


「初めての魚も、たしかミスリル ソード サーモンだったけど、確か希少種とか出てたな 」


『そうなのです、このお魚は希少種の中の更に希少種になるのです。

 このマップ自体が手付かずだからこその釣果と言って良いのです 』


「リリちゃん、ならここは希少種の楽園てこと? 」


『そうなるのです。 この地に踏み入った人種はマスター達が初めてなのです 』


「ここは楽園なのか? アングラーにとっての楽園!? パラダイス!!? 」


「おにいちゃん……妄想の世界に旅立たないの!! 」


「うっ、すまん。 取り込みに時間が掛かったせいで遅くなってしまったね。

お茶を頂いて戻るか」


「そうね、急いでも一時間くらい掛かるからね」


『またふねで戻るのか? 水の上を駆けて行けば早いのでは無いか? 』


「いやいや、無茶言わないでよ。 無理だからね!」


『そうか、出来ると思うがな……(これは鍛える必要もあるな)』


……なに、今の間は。

危険を感じる、さっさと戻ろう……。


さて今夜は岩魚尽くしで夕飯ですよ。

気を取り直して、皆でベースキャンプへ戻るのだった。   

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