第17話 カヤックフィッシング

 湖上の人となって既に一時間程が経過し、北北東へ進路をとり岬まで後半分ほどの所まで来ていた。 

沙弥華さやか達は先行していて少し先に居るようだった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


沙弥華さやか殿、このカヤックという物は中々乗り心地が良い物なのだな 』


「そうね~、今日は波もほとんど無くて揺れが無いからかしら、波があるとそれなりに揺れるわよ」


『船という物は始めてゆえ、楽しませてもらおう 』


「シロ君は船は始めて……前の姿で? てことで良いのかな? 」


『さよう、以前もだな。 今生こんじょうで始めての事。 空を翔れば済む事ゆえ、乗り物と言う物に縁は無かったのだよ。 当然、水の上も歩けるゆえ、船もしかりだ。』


「空をかける? 水上を歩く? 凄いのね……。

私達人間では無理だから、こう言う道具や乗り物を使うのよ。

ただ、私達はレジャーのためにカヤックに乗っていたけどね。

漁をするとか移動のためとかでは無くね 」


『ふむ、哲殿も沙弥華殿も人故か。 兄妹ふたりはもはやそのくびきから外れておる。

空を翔る事も叶やも知れぬぞ! 』

……いま不穏な単語が聞こえたけど。

お兄ちゃんと確認した方が良いかな~ぁ。

でも、今はスルーしましょう。


「そっ、そうね。 空から見た景色も素敵でしょうね~ 」


『空からか。 問題はマップ更新だな。

更新されたマップ以外は見る事も行く事も出来ぬからな。(先ずは領地化からか……) 』


「今のマップ以外は行く事は当然だけど、空さえ見る事はできないって事? 」


『さよう、認識する事すら出来ぬ 』


「それは詰まらないわね! 仮に空が飛べても地平線も見えないって事でしょ? 」


『そう言う事だな。 それが望みならば、マップは広げていく必要は有るな 』


「そうね、せっかくの異世界なんだから……色々な国とか行ってみたいよね 」


『うむ、それが望みなら、その辺の話も追々して行こう 』


「それにしても遊者補正って凄いのね! もう一時間ほど漕いでいるけど、全然疲れないのよね」 


『それはそうであろう、肉体的にも強化されておるからな 』


「のんびり漕いでいるからスピードは地球と変わっていないと思うけど 」

AR表示に時速五キロメートルと出ていた。約三ノットで進んでいる事になる。


 それにしても水が澄んでいて、怖いくらいに神秘的な青い色をしていた。

見ているだけで心が癒されます。

水源が気になって調べると、湧水と表示されました。

とても澄んだ綺麗な水のようです。

だって、「飲用可」と表示されていましたから!。


湖の周囲は緑の森に囲まれていて、湖面には立ったまま枯れた木が所々立ち、水の青さと相まって、幻想的な景観になっている。

湖面の波へ、太陽の光が差し込みキラキラ反射して……とても綺麗です。


 岬側にエントリーポイントがあるかマップ検索すると、岬の反対側に有る事がわかった。

兄に念話で連絡をすると

「わかった。 そっちはどうだ? 楽しんでいるか 」


「うん、シロ君も初めてで楽しいみたい 」


「(ルアーを)流しながら行くから、先に上陸しててくれるかな 」


「いいけど、余り待たせなないでね! 」


「善処します」

沙弥華さやかは、先に行ってお「茶の準備でもしてようかな」と心の中で呟き、岬を目指すのだった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 二本ほど「クイーンズ レイク トラウト」をキープした後、一度ロッドを上げた。

沙弥華さやか達が、先に行って待っているからだ。


「少しのんびりし過ぎたな。 リリス、少し速度を上げるぞ!」

そう言って、パドルを漕ぐ手に力を込める。


 今使っている舟は、速度もそこそこでる船底の形状をしていた。

波を立てスピードが上がっていく。

時速十キロメートル程度、六ノットまであげ沙弥華さやか達の居る場所へと進路をとった。

この速度で漕ぎ続けるのは結構無理が有る速度ですよ。

本物のシーカヤックを、競技選手が漕いでも時速十キロメートルいくかいかないかですから!。

しかも自分のふねはシットインカヤックなので、シーカヤックと比べたらスピードはそれ程出ないのです。

遊者補正様様ですね。


 岬まで後一キロメートル位の所で、やっと沙弥華さやか達に追いついた。

追いついたと言っても既に上陸していたみたいだった。

 

「お兄ちゃん。 上陸したよ。 お茶して待ってるから早く着てね!」

と念話が届いたのだ。


「了解。 岬先端で一回流したら行くよ 」

 そう答えてルアーを投入しロッドをセット。


「いざ! 大物よ来たれ! 」


 速度を落として駆け上がりを狙う、岬を過ぎたあたりで「ピッシッ」とロッドが引き込まれた。

引きが強烈だったため、バット部から「グッイ---ンッ」と曲がりティップが湖に突き刺さったのだ。

すかさずパドルに力を入れふねを押し出す事でフッキングを確実にする!。


「マスター! 先程より大物の反応があるのです! 」

横でリリスが叫んでる。


 ホルダーからロッドを掴み格闘開始だ!

「これ、引きが凄いんだけど……ふねが……持っていかれる……!?」


 ドラグは鳴り響き「ジジィーッ」と、瞬く間にラインが吐き出されていく!。

「ヤバイね……ラインがもつかな ?」

遊者補正にすがるしかないか……どれ位強くなっているか心配だけど……。


ドラグが湖に鳴り響く、ラインもそれ程多いわけでは無いので心配だった。

湖なので3000番代のリールをセットしているが、PEラインを300m程しか巻いていない。

ルアーも深く潜らせていたので100mは既に出ているだろう。


 ふねきづりながらの格闘ゆえ、魚に与えるプレッシャーもかなり効いており、ポンピングでリーリングを繰り返す事でラインを少しづつ巻き取っていく。


 時折走られ、ドラグは再び鳴り響き「ジジィーッ」とラインを吐き出していく。

どれ位の時間が経ったのだろう、AR表示ではヒットから三十分が経過していた。


湖面に突き立つように張ったラインのテンションを緩めないよう、不意の突進に注意を払い、少しづつラインをリーリングし獲物との距離を徐々に縮めて行く。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 その頃湖岸では沙弥華さやか白銀しろがねがその光景を眺めていた。

「お兄ちゃん、掛かったみたいね」


『その様だな。 かなりの大物に感じるが……はて? 』


「シロ君、何か気になるの? 」


『ふむ、少しばかりな。 水中に魔力を感じるのだが……気のせいだろう 』

このマップ上に魔力とは、あやつ以外に居るのか? 

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