第12話 連休③
お昼前に家に到着した。荷物は
「ただいまー!」
花楓が大きな声でいうと、奥から
「おかえり。」
「あの、ただいま。お久しぶりです。」
「おかえり、結衣ちゃん。ゆっくりしてってね。あと、ごはんもうできるから、手を洗ってらっしゃい。」
「はーい。」
花楓は返事をし、私はうなずいて洗面所へ向かった。
ダイニングに4人がそろった。ご飯を食べる前に実乃梨さんが問いかけてきた。
「結衣ちゃん、ごはんを食べる前に拝まなくても大丈夫?このあとお参りにいくけど、家でも拝んでおいたほうがいいと思うなあ。」
「なら、僕たちもいこうか。」
「OK。さめちゃうから早く行こう、結衣。」
私たちは席を離れ、仏壇へ向かった。私は仏壇の前に正座して、ろうそくに火をつけて、お線香をたてた。それから、チンチンチーンと音を三回鳴らして手を合わせた。仏壇には、私の知らない・・・私の記憶にない、本当のお父さんとお母さんの写真が飾られていた。
昼食をすませ、私たちはお墓詣りと買い物のために出かけた。私の両親が眠っているというお墓はちょっと遠い。車の中で私は移動の疲れとゆらゆら揺れる心地よさから眠ってしまった。霊園につき、花楓に起こしてもらって起きた。霊園はちょっとした丘の上にある。風の園でもあった。連休ということもあり、そこにはあまり人はいなかった。そして、『神城家』のお墓にたどり着いた。私はあまりお墓には来ていないけれど、きれいに管理されていた。きっと定期的に実乃梨さんと哲人さんが来てくれていたのだろう。それでも、少し水で洗ってあげてから、お線香をあげた。それから私は一人、お墓の前でしゃがんで手を合わせた。3人も後ろで手を合わせてくれている。少しの間、目を閉じ、拝んだ。静かな時間が流れ、風だけが私をそっと包んだ。目を開き、顔をあげて静かに立ち上がる。ここに来るといつも胸が痛くなり、目の奥が熱くなって、顔がこわばる。私は、両親のことなんて知らない。両親のことを覚えていないという罪悪感と、消えてしまって思い出せない記憶が頭を痛くする。実乃梨さんと哲人さんは無理に記憶を思い出さなくていいい、それで結衣ちゃんが平常でいられるならお父さんとお母さんも本望だ、という。思い出してはいけない記憶と思い出したい記憶がある。でもそれは私を壊してしまうのだ。私は心の中で、「ごめんなさい」と謝ってその場を立ち去った。
お参りのあと、ショッピングモールに行ってお買い物をした。私は心ここに在らずといった状態であったが、花楓が私の手を引っ張って、楽しいことで気を紛らわしてくれた。花楓はいつもそうしてくれる。私が元気になるようにいつも明るく接してくれてた。本当のお姉ちゃんのように。でも、歳は同い年なんだけどね。
それから夕食はレストランで食べた。私の好きなハンバーグとポテトを食べ、大学でのことを花楓と二人で実乃梨さんたちに話した。それから、明日のことについても花楓と話し合った。明日は花楓と一緒に遊ぶことになっている。というのも明後日の夕方には花楓が大学のほうへ戻ってしまうので本格的に遊べるのは明日だけなのだ。結局明日は家でゲームをして遊ぶことになった。連休で遊べるところはどこも混んでいるので人混みが苦手な私にとってはつらいことから、そういうことになった。
そして家に帰り、お風呂に入る。するとそこに花楓が乱入してきた。
「せっかくだから久々に一緒に入ろう。」
「え、狭い。」
「ん?結衣も隠すようになるなんてだいぶ女の子っぽくなったねー。やっぱり彼氏でもできた?」
「できてない。」
「そうだ、髪洗ってあげる。ほらここに座って。」
花楓は椅子を隅からとって私をそこに座らせた。
「結衣の髪を洗うなんて何年ぶりかなー。」
「そんなことあったけ?」
「あったよ。結衣がまだ覚醒していないころは、私が毎日お風呂に入れて、髪とか体とか洗ってあげたんだよ。」
「そうだっけ。」
「そうそう。ついでだから、からだも洗ってあげる。」
「いや、そこは自分でやる。」
「おやおや、私はさみしいなあ。かわいい結衣が自立していくのはなんだか残念。私が将来まで面倒みてあげる予定だったのに。」
「でも、花楓には、その、好きな人がいるんでしょ。」
「まあ、でもそれとこれとは話が別だから。」
「どうして?」
「だって、私が結婚しても結衣も一緒に暮らせばいいだけの話だから。」
「でも、彼氏のほうは嫌なんじゃない?」
「そうかなー。」
「そうだよ。私はお邪魔になっちゃうよ。」
「そっか。それは残念。はい、流すから目つむって。」
花楓は私の髪に水をかけて泡を流し始めた。
「でも、結衣にも好きな人ができたみたいだし、ちょっとは安心かな。まあ嫉妬しちゃうところもあるけど。」
「だから違うって。それに嫉妬したのは私のほうで・・・やっぱなんでもない。」
「え?もしかして結衣は私のこと好きでいてくれたの?」
「・・・そんなのどうだっていいでしょ。」
「もう教えてくれたっていいじゃん。」
「花楓は家族だから。」
「そう、私は結衣のこと、好きだよ。」
「ぬ。」
「えへへへ。いま、ドキッとしたでしょ。」
「違うから。」
花楓に耳のそばで好きっと言われたとき、本当はさくらさんのことを思い出してドキッとした。もしかしてこの2人って似てるところがあるのかな。
そんなことを思いながら、私は体を洗い始めた。花楓は自分の髪と体を同時に洗い始めている。
「まあ、誰が誰を好きなってもいいじゃない。結衣はその友達のことどう思っているかはわからないけど、今の結衣のことを見てるときっとその人は結衣のこと好きでいてくれてると思うよ。」
「それはそうかもしれないけど。積極的すぎるんだよね。」
「うらやましいな。私なんか高校のときから進展なしだよ。今は忙しいからってデートにも行ってくれない。」
「そうなんだ。花楓も苦労してるね。」
「そうだよ、だから結衣はいっぱい私に甘えてね。私がちゃんと相手してあげるから。」
「どちらかというと、私が甘えられている気もするけど。」
「細かいことはどうでもいいの。」
こんな風にお風呂でのやり取りは続いた。
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