第11話 連休②
4月27日がやってきた。ゴールデンウィーク初日である。私は朝早く家を出て駅へ向かった。さくらさんには、このことを昨日伝えておいたので大丈夫なはず。家に帰るというのにキャリーバッグにパンパンになるまで荷物を詰めていかなければならないのは酷である。重たいキャリーバッグを引きずってようやく近くのバス停についた。
「あ、おはよう結衣ちゃん。」
そこにいたのはさくらさんだった。麦わら帽子をかぶり、半袖のひらひらしたワンピースを着ていた。
「どこいくの?」
「実家ですっ。」
「あはは。寒くないの?」
「うん。結衣ちゃんはもっとおしゃれしたほうがいいと思うよ。」
「ええー、私は別に。」
「今度一緒に買い物にいこう。私がかわいい服、選んであげる。」
「それじゃあ、そのときはよろしくおねがいします。」
「うんうん。あ、バス来た。」
ちょっと話してただけでバスが来たので、私たちはバスに乗り込む。この重い荷物を運ぶのにさくらさんが手伝ってくれたので助かった。バスのなかでは、後半のゴールデンウィークの予定についてどうなっているのか訊いてみた。
「3日からの予定はどうなっているの?」
「それはまだ・・・。」
「え、まだ決まっていないの?」
「だいたいは決まっているよ。でも、今はまだ教えない。」
「なんで?」
「それは、お楽しみということで。」
「ふうーん。わかった。」
「まあ、あとは学校のある中日に話すよ。」
「うん。」
バスが駅に着くと私たちはバスから降りて新幹線ホームへ向かった。
「さくらさんはどっち方面?」
「あっち方面。」
「あー、反対だね。」
「結衣ちゃんはここから乗るの?」
「うん。」
「私は早く来たからまだ時間あるし、見送りってことで一緒にいるよ。」
そこで構内アナウンスが入った。
「って、もう来ちゃうね。」
「そうだ、寝るときくらいはメッセ送るね。」
「うん、ありがとう。」
新幹線がホームへ入り、その風に飛ばされないようにさくらさんは帽子を抑える。新幹線が停まると私は歩き始めた。
「それじゃあ、またね、さくらさん。」
「また。」
手を振ってお別れのあいさつをする。私は出発するまでドアの近くにいてさくらさんに手を振り続けた。出発するときにさくらさんが何かを言っていたが聞こえることはなかった。
数時間後、目的の駅につき、新幹線を降りた。あいかわず、ここは人が多い。特に連休となるとひどいありさま。人が苦手な私にとっては住みにくいところである。改札を通って、駅の構内から出る。あらかじめつく前に連絡を入れておいたので、迎えがきているはずなんだけど、人が多すぎて探すのが大変。それにこの重い荷物のせいもあって身動きがつらい。
「おーい。ゆーいー!こっちこっち!」こっちだよー!」
きょろきょろしていたら、とても大きな声で呼ばれていることに気がついた。その方角を向くと、大きく手をふっている女の子とその隣にスーツを着た男性が立っている。私は、大衆をかき分けてなんとかそこまでたどり着く。
「久しぶり、結衣!」
「よく来たね、結衣ちゃん。」
大きな声で女の子があいさつし、それに続いて隣の男性もあいさつをした。
「お久しぶりです。」
「そんなにかしこまらなくても。」
「それじゃあ、帰ろうか。あ、荷物重そうだから、僕が運ぶよ。」
「ああ、ありがとうございます。」
「いいのいいの。」
重いキャリーバッグを男性、
「花楓、どこいくの?」
「事務所だよ。ほら、お父さんのところに車を置けばタダで済むじゃん。」
「そっか、結衣ちゃんは事務所に来るのは初めてか。うちの事務所は駅から10分くらいのところにあるんだ。」
後ろを歩く哲人さんが補足説明をする。
「ほら、もうすぐだよ。」
そして、事務所についた。事務所はこの建物の2階にあるらしい。窓に『宮代法律事務所』と書いてあった。
「ちょっとここで待ってて。車出してくるから。」
と言って哲人さんは荷物を置いて車にいった。待っている間、花楓がいきなり質問をしてきた。
「ねえねえ、結衣は大学で彼氏とかできたの?」
あまりに唐突すぎたのでむせてしまった。
「その様子、怪しい。」
「べ、別に。友達が一人できたくらいだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、その友達のことどう思ってるの?」
「・・・どうって、優しくて、かわいいとか?」
「帰ったら、その友達のこと詳しく教えてよ。」
「なんで?」
「だって、結衣ったらぜんぜん連絡してくれないんだもん。何があったのか心配だったんだからね。」
「わかった。」
とか言っている間にもう車が来ていた。トランクに荷物を積んでもらって私たちは後部座席に座った。車のなかでは今度は哲人さんが質問をしてきた。
「大学はどう?うまくやれてる?」
「はい。ぼちぼちと。」
「そっか、それならよかった。ちゃんと勉強はしておくだぞ。じゃないと単位とれないからな。」
「ちょっと、お父さん!怖いこと言わないでくれる。」
「てことは花楓はちゃんと勉強していないんだな。」
「あー、今はそういう話はなしでー。せっかく休みなんだから。」
「ははは。ごめんごめん。」
家につくまで車の中ではそんな親子のやりとりがみられた。あいかわらず、この家族は明るいなあ。離れて一か月くらいだというのになんだか懐かしく感じた。
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