第10話 連休①

 時は少しばかり流れ、桜は葉桜となった。もうすぐゴールデンウィークがやってくる。今年は前半の3日間と2日挟んで後半4日間ある。ちなみに私たちは金曜日がもともと講義がないので今回は前半も4日間休めることになる。これでめいいっぱい休みを堪能できるということだった。しかしながら、私たちは大学1年で初めて両親から独立して生活していることがあり、一度帰省しなくてはならない理由があった。というのも、両親が心配性なのか「ゴールデンウィークには帰ってきなさい」としつこく連絡が来るからであった。以上のことを踏まえて私とさくらさんはゴールデンウィークの一週間前というもうすでに遅いのではという時期に予定を話し合った。

「結衣ちゃんはこの中で何が好きなの?」

 さくらさんは暢気に今いるファミレスのメニューを眺めている。すでに注文は済んでいるのに。

「もう、今はもういいから。予定決めよう。」

「好きなもの教えてくれたらね。」

「わかった。私は普通にハンバーグとポテトが好きだよ。今も食べるし。」

「ありがとう♪私もだよ。」

 さくらさんが調子に乗って私をまっすぐ見ていった。まじまじと見られるのに耐えきれなくなって私はドリンクをとりにドリンクバーコーナーへ向かった。

「ああ待って。私も行く。」

 さくらさんも慌ててついてきた。いちご・オレをいれている間にさくらさんはそって耳元で、

「そんなに照れるなんて、かわいい。」

 とささやいて、自分はオレンジジュースを汲んで早々と席に戻っていった。

 まったく、そんなに私の反応が面白いの・・・でも、それはそれで・・・・・・いやいや、全然良くない。人前であんなことなんかされたら・・・って何考えてるの私。

 邪念を振り払って私も席に戻った。


 座るとさくらさんはじぃーっと私を見つめている。私はそれを気にしないように無視してスマホで予定表アプリを開いた。

「家・・・じゃなくて実家に帰るのは前半の4日間でいいの?」

 話題を今後の予定の話に変えてすすめた。

「うん。いいよ。じゃあ後で親に連絡しておくよ。」

「それじゃあ3日の木曜から日曜までの予定をどうするか決めよう。」

「私は結衣ちゃんと一緒ならどこだっていいよ。」

 オレンジジュースをストローで飲みながら、さくらさんは言う。私はいちいちさくらさんから出てくる言葉に反応して動揺する。手が震えて上手くイチゴオレを飲めないでいる私をみてさくらさんはにこっと笑った。

「体は素直だね。」

「ななな、なにを言ってるの。別に動揺してるんじゃなくて、これは、そう、コップが重くて震えてるの。」

「じゃあ私が代わりに飲ませてあげる。」

 さくらさんが手を伸ばしてきたので私は慌てて手をひっこめた。さくらさんはそれでも私の腕を掴んだ。だけど、コップの中のイチゴオレが勢いで少しこぼれてしまい、私の手にかかってしまった。

「「あ。」」

 二人同時に同じ反応をして固まる。それからさくらさんは身をテーブルに乗り出し、顔を手に近づけると、ペロッと私の手についたものをとった。私はすぐにコップをテーブルに置いてさくらさんの手をほどいた。さくらさんは唇に指をあてて、

「甘くておいしい。」

 とうっとりしていた。

「もういいから。」

 対応に困り、赤面しながら言う。

「ごめんごめん。怒った?」

「べ、べつに・・・。」

「それならよかった。あ、きたよ。」

 そこに注文していたものが運ばれてきた。二人の前にハンバーグが並び、フライドポテトもテーブルの中央に並ぶ。料理がきたことなので私たちはいただきますをして食べ始めた。さくらさんはおいしそうに頬張って食べていく。今思えばさくらさんって何を食べてもおいしそうに楽しんで食べてる。

「さくらさんって嫌いな食べ物あるの?」

「ん?嫌いな食べ物?・・・そうだね私が嫌いなのかぁ。基本的に食べたことがあるのは食べれるし、ないんじゃないかな。ブロッコリー嫌いなの?食べてあげようか?」

「いやブロッコリーは食べれる。たださくらさんは毎回、幸せそうに食べるなあって思っただけ。」

「それは結衣ちゃんと一緒だから、何を食べてもおいしく感じるんだよ。」

「もう、そういうのいいって。わざとなの?素なの?」

「どっちだろうね。」

「うう。まあいいや。さっさと食べよう。」

 私もハンバーグを食べ進めた。



 ハンバーグを食べて終わると再び話題はゴールデンウィークの話に移った。

「私も結衣ちゃんの実家にいくとか?」

「どうして?」

「それは結衣ちゃんのご両親にご挨拶をしないきゃいけないし。」

「いや、私たち結婚前のカップルとかじゃないから。」

「ははは。またまた素直じゃないんだから。」

「え?」

「え?」

 さくらさんが本気で言っているのかわからずに、シンプルに引いた。さくらさんも話がかみ合っていないことに気が付いたようである。

「私たちってカップルじゃないよね?」

「え?だってキスだってしたし、カップルだよね。」

「でもでも、女の子どうしだし。」

「それは女の子どうしのカップルだったら同じこというけど、性別とか関係ないじゃん。」

「「・・・。」」

 ドリンクを飲みほして、席をたち飲み物を汲んで戻る。

「うん。私たちがカップルかどうかは置いておいて、私の家にくるという案はなしで。」

「えー。そっかそれはちょっと残念。」

 それからしばらくさくらさんは黙っていた。そして、とつぜん何かを思いついたようで喋りだした。

「なら、私が決めてもいい?準備とかもこっちでやるからさー。」

「いいけど、実家にいくのはなしだよ。」

「わかってる。結衣ちゃんの希望も入れておきたいから、何か自分が好きでやりたいことを教えて。」

「ん~。じゃあ、星がみたいかな。」

「星?わかった。考えてみる。」

「ああ、無理に予定に入れる必要はないからね。」

「うん。まあまかせて。」

 というわけで、具体的なことは結局のところ決まらなかったが、あとはさくらさんにまかせることになった。私だってさくらさんが提案するところならどこだっていい。ぼっちじゃなければそれでいい。

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