第9話 やみあがり
4月22日日曜日。朝、目が覚める。窓のカーテンの隙間からは朝日が射し込んでいた。気分はよく、熱も下がったようだった。ベッドから抜け出し、キッチンに向かう。さくらさんはそこで朝ご飯の用意をしていた。サクラさんが私に気づくと、声をかけてきた。
「おはよう。ご飯はもう少しかかるから先にお風呂に入っておいで。」
お母さんみたいに言ってきた。私は言われた通りにお風呂に入ることにした。湯船にはすでにお湯がはってあり、いつでも入れる状態だった。着替えの服やらをもってもう一度浴室へ向かった。脱衣所でパジャマを脱いでそのまま洗濯機に入れる。履いていた下着も一緒に洗濯機へ入れた。スイッチはまだいれないでおいた。浴室に入り、シャワーを浴びる。久しぶりな気がして、夢心地になる。髪や身体を洗って、湯船に浸かった。何かが抜けていくような感覚、そして眠くなりそうにもなった。ぼーっとしていると、さくらさんが突然浴室のドアを開けて覗いてきた。
「ご飯できたよー。ってそんなに恥ずかしがらなくてもいいんだよ。ほら、私たち、女同士でしょ。」
「そんなの関係ないから。もういいから、あっち行って待ってて。」
さくらさんはドアを閉めて去っていった。それから私も立ち上がって欠伸をしながらお風呂を出た。脱衣所でバスタオルで水分を拭き取り、そのタオルは洗濯機へ入れる。それから、下着を着て、服を着る。パジャマとはおさらばだ。デニムのパンツを履いて、白ベースのTシャツをきて、ピンクのパーカーを羽織る。ほんとはスカートにしたかったけど、家のなかだしこっちのほうが楽かなと思ったのでこれにした。
久しぶりに食べるちゃんとしたご飯はそのせいなのか、それともさくらさんが作ったからなのかすごく美味しく感じた。ご飯を食べているあいだにさくらさんは何かを思い出し話しかけてきた。
「ねえねえ、ご飯食べた終わったら出かけない?」
「え、でも今日くらいは休もうかなって思うんだけど、明日から学校だし。」
「え~。気分転換だよ。行きたいところあるし。」
「わかった、でもちょっとだけだよ。」
「やった。」
すごく嬉しそうだった。そんなさくらさんを見るだけで私まで笑顔になってしまいそうだった。
朝食を食べて食器まで洗ったあと、私たちは外出した。行き先はさくらさんだけが知っている。私はさくらさんに手を繋がれてついていくだけだった。そして、辿り着いたのは公園らしき広い場所だった。大きな池があってそのなかで鯉たちが泳いでいる。そしてその公園にはたくさんのピンクに色づいた木が立ち並んでいた。
「良かった、まだ綺麗に咲いてた。結衣ちゃんと一緒に見たかったんだ、桜。」
こっちを見てにっこりしながら言うさくらさん。
そうだった。私も桜を一緒にさくらさんと見たかった。でも、なんでそう思ってたんだろう。さくらさんと二人で・・・なんて、いやいや私は流されない。
「ねえ、結衣ちゃん。もっと近くまで行こう。私、良いところ知ってるんだ。実は結衣ちゃんが風邪で寝込んでいる間に下見してたんだよね。」
手をしっかり握られて、私はついていく。ちょっとした茂みの奥に桜の木があった。私たちはその桜の木を見上げた。
「ねえ結衣ちゃん。・・・キスしてもいい?」
珍しくさくらさんは控えめで声が震えていた。視線を桜の木からさくらさんのほうへと移す。物欲しそうにさくらさんがじっと私を見つめていた。
なんだろう。心がざわつく。
私はさくらさんの目に吸い込まれてしまいそうな感じがした。
してもいい?いや、やっぱりだめ・・・けど、どうしてもってなら・・・。
さくらさんが目を合わせたまま一歩近づく。すると、私は一歩下がる。さらに数歩近づくと、数歩下がる。けれど、望んでいたかのように私の背中は木にぶつかってそれ以上下がることはなかった。ゆっくりとさくらさんは私の頭を支え、顔を近づけてきた。そしてついに唇と唇が重なった。
心臓がドクンドクンと鼓動が高まって、身体が熱くなっていく。
すると、風が強く吹き、思わず目をつむった。そして、目を開けるとさくらさんの唇が離れていた
「うん。今度はカレーの味は混ざってないね。すごく甘い、とろけるほどに。」
そんな甘い声をしていただろうか。さくらさんは満足げに感想を言った。
「う~、そんなこと言うならもうさせてあげないんだからね。」
恥ずかしさをごまかした。けど、バレバレだろう。それがますます私を恥ずかしくさせた。だから、顔を合わせないように歩き出した。
「もう、帰ろう。」
私がそういうとさくらさんは、
「うん、お昼はどうする?」
といつもと同じテンションで訊いてきた。そうやって私たちはいつも通りの日常へと戻っていった。
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