第8話 熱にうかされて
すぅ、すぅ、すぅ・・・。ん?
穏やかに目を覚ました私は体を起こして辺りを見渡す。
「さくらさんは?」
一人呟き、ぼやっとする頭を使って考える。私は立ち上がって、足をキッチンへと運ぶ。ふらふらとよろめきながらそこへ行く。そしてそこには案の定さくらさんがいた。
「さくらさん~。」
「え?ちょっと結衣ちゃん。休んでないと。」
私は食事の支度をしていたさくらさんに抱きついた。
「ああ~、落ち着く~。」
この行動と言葉にさくらさんは私の異常を察した。
「まだすごい熱。さあ、ベッドに戻ろう。」
「待って~。さくらさんも一緒。」
「ん?」
「このままがいい。一人にしないで。」
「わかったから。行くよ。」
さくらさんは私を持ち抱えてベッドまで運んだ。私をベッドに寝かせるとさくらさんも私の隣に横になる。布団をさくらさんがかけると、私はさくらさんに抱きついた。さくらさんからいい匂いがした。そんなさくらさんの胸の中で私はすぐに眠りについた。
数時間後。私は目を覚ました。そしてさくらさんはベッドの横に寄りかかって雑誌を読んでいた。
朝に起きたような気がするけど、思い出せない。まだ熱があるからかな。
そんなことを思っているとさくらさんが私に気づいて声をかけた。
「おっ、起きたんだね。お腹空いたでしょ?今、あっためてくるから待ってて。」
そう言ってさくらさんはキッチンに行く。私は横になったまま顔だけを動かして時計を見た。午後2時を回っていた。
さくらさん、ずっと私のところで看病してくれたんだ。何かお礼をしなくちゃなぁ。
ぼんやりと天井を眺めていると、さくらさんがトレーに何かのせてやってきた。
「お待たせー。やっぱり熱があるときはお粥だよね。あ、それともヨーグルトが良かった?そっちもあるから食べたかったら言ってね。」
「ところでそのお盆ってうちにあったっけ?」
「ああこれ?新しく買ってきた。ほら、ふたりで暮らすなら必要でしょ?」
「ん?」
「あれ?もしかして覚えてないの?朝のこと。」
「朝のこと?やっぱり私、朝に起きたよね。それで何か言ったの?」
「へへへ。まあいいから冷める前に食べよう。はい、あ~ん。」
朝のことが気になるけれど、それは後にして上体を起こして口を開けて、さくらさんのあ~んを受け入れた。ゆっくりと噛んでから飲み込む。飲み込んだら次のあ~んが待っていた。そんなふうに本日の第一食目を食べた。
食後に体温を計ってみると、37度2分だった。
「明日にはきっと治るよ。さあ、休んで。」
さくらさんは食器をキッチンへ持っていく。それから戻ってきて私を横に寝かし、布団をかぶせてくれた。
朝の件はまだ分からないままだけど、眠くなってきたのでそれは後回しにして私は目を閉じた。
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