第7話 呑まれて飲む
さくらさんが近づいてくる。目の前にさくらさんの顔が迫ってきて、私は逃げようとしたが、頭の後ろを手で支えられて、動きが止まってしまった。
「な、何を、すすす、するつもり、ですか?」
縮こまって質問する。でも、さくらさんは答えずに顔をもっと近づける。息がかかるくらいの距離まで。心拍数がやばい。どんどん上昇していく。
「口をちょっと開けて。ゆっくりいくよ。」
さくらさんの言われるがままに口を開け、そこにさくらさんがコップを持ってきて、少しずつ傾けていく。そして、流れ込んでくるスポーツドリンクを飲みこんでいった。コップの半分まで減ったところで少し休み、さくらさんは私の様子をみて再びドリンクを流し込んだ。最後はちょっと強引だった。これでさくらさんから解放されると思ってけど、口から洩れて流れ出た水滴が私の首筋を通って胸のあたりまできていた。それをさくらさんは、舌で舐める、なんてことはせず、タオルで拭き取った。
「よおし、まだまだあるからどんどんいこう。」
「ちょっと待ってさくらさん。私はもう・・・。」
「いいからいいから、病人は黙って言うことを聞くものなの。」
私の意見をきこうともせずにさくらさんはコップにドリンクを注いだ。そして、私のあごをもってまた顔を近づけてきた。
「言うことを聞かないと・・・わかるよね。」
じっと私の目を見て言う。無視すると何をされるのかまではわからなかったけれどそのさくらさんの目は逆らえない何かが潜んでいた。私は固唾をのんで静かに頷いた。
「うん、いい子いい子。」
さくらさんはにっこりと笑ってご機嫌なご様子。さっきと同じ要領でドリンクを飲ませてくる。
「ん、ん、ん。はあはあはぁ。」
二杯目を飲み切ったところで苦しくなる。さっきよりもボーっとしている気がする。視界が狭まり、ピントが合わなくなる。心臓のドキドキが響く。異変に気付いたのかさくらさんは私のおでこに手を置き、体温を確認した。
「大変!熱が上がってる!結衣ちゃん立てる?ベッドまで抱っこしようか?」
驚きの声は大きくてびっくりしたけど、そのあとの問いは優しい声だった。さくらさんは返事がないぼんやりとしている私の膝の下と首の下に腕を入れて持ち上げた。
「よいしょっと。やっぱり結衣ちゃんは軽いね。」
私はさくらさんの腕の中で眠りに入ってしまった。そんな私をさくらさんはベッドに寝かせて布団をかぶせ、頭に冷たいタオルを置いて看病してくれた。このことを寝ていた私は知らなかった。
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