第6話 頼れるさくら
今度はちゃんと太陽が登った頃に目が覚めた。頭に置いたはずのタオルはベッドの枕元にあった。寝返りで落ちてしまってあまり意味なかったようだ。ベッドの近くに置いておいた体温計でまた熱を測る。
「37.8℃」
熱はまだまだ下がらない。でもさすがにこのまま何も食べないでいると死んじゃう。でも買い物に行けるほどの状態でもない。こうなると誰かに頼むしかないけど、私の友だちはさくらさんしかいない。でも今はさくらさんとは距離を置いている。こんなときにお願いを聞いてくれるのだろうか。やってみるしかない。
さくらさんと連絡をとるべくスマホを手に取る。でも、画面がつかない。バッテリー切れだった。充電をし始めて数分後に電源を入れる。そして、さくらさんにメッセを送った。
「さくらさん、こんなときに悪いのですが、ちょっと買い物をしてきてもらえませんか。」
「今、体調を崩していて買い物をする余裕がないのです。」
と言った感じに長々と敬語を使って送った。すると、すぐに返信がきた。
「いいよ」
「何買ってくればいい?」
といつもどおりだった。
「何か食べるものを」
「食べ物ね」
「あとは何かある?」
「とりあえず食べるものがあれば」
「熱?」
「うん」
「わかった」
「すぐ買って行くから、鍵開けておいて。」
「ありがとう」
そこでやり取りが途切れた。私は言われたとおり、玄関の鍵を開けに行って、ベッドに戻ろうとした。そのとき、部屋が散らかっていることに気づき、慌てて片つけをした。でも、ふらふらな状態であることに変わりはないので、一つ一つに時間がかかった。
数十分後、玄関の扉が開くのが聞こえた。そのときの私はまだ部屋を片付けていた。買い物袋を両手いっぱいに持ったさくらさんが私の部屋に飛び込んできた。さくらさんは私の様子を見ると、ちょっと怒った感じに言った。
「何やってるの?ダメだよ、寝てなきゃ。」
「ちょっと部屋を・・・。」
「そんなの後でいいから。ほら、布団に行こう。て、ふらふらじゃん。」
さくらさんに助けられながらベッドまでいってそこに座らせられる。
「はい、とりあえずこれ飲んで休んでて。お昼はお粥を作っておくから。」
渡されたのはドリンクゼリー。確かにこれなら簡単にエネルギーを補給できるから、今の私にはちょうどいいかもしれない。
でも、キャップが開かなくて苦しんでいると、さくらさんが代わりに開けてくれた。
そのドリンクゼリーを飲み干すまでさくらさんはそばにいてくれた。飲み終えて空になった容器はさくらさんに渡して私は言われたとおり、ベッドに横になって少し眠った。
よく眠れたのだろうか。さっきよりいくらか良くなったような気がする。起き上がると、頭にひんやりとしたものがあることに気がついた。熱さまシート。さくらさんが買って付けてくれたんだ。寝室を出て、キッチンダイニングやリビングに行ってみるけれども、さくらさんの姿が見えない。もう自分の部屋に戻ったのだろうか。そう思っていた頃に玄関の方からドタバタと音が聞こえてきた。さくらさんだ。さくらさんが荷物をたくさん持って家の中に入ってきた。
「ああ結衣ちゃん。そんな状態で一人にするわけにはいかないから、今日はここに泊まるね。」
1階から布団や着替えなどを持ってきたようだった。
「待ってて、今お粥あっためるから。」
さくらさんは荷物をひとまず置いて、お昼を温め直した。私はダイニングテーブルの椅子に座って待つ。そして、出てきたのはごく普通のお粥だった。
「ごめんね、私、お粥はあんまり作ったことがなくて。」
「うううん。ありがとう。」
頭を横に振って、そんなことは無いということをアピールする。そして、スプーンを持とうとしたが、うまく掴めずに落としてしまった。
「結衣ちゃん、私が食べさせてあげる。」
そう言ってさくらさんはスプーンを手にお粥をすくい上げて私の口元へ運んだ。
「あ、ちょっと待って。フゥフゥ。これで良し。はい、あーん。」
「ちょっとさくらさん。それはちょっと…。」
「何?ちょっとばかり言ってやっぱりまだ結衣ちゃん治ってないんだよ。ほら、病人は黙って看病されるぅ。」
さくらさんがスプーンを押し付けてくる。仕方なく私は口を開けてスプーンの侵入を許した。味は、ほんとにごく普通のお粥の味だった。でも、美味しい。
「お味はどうかな?」
「うん、普通。じゃなくて美味しいよ。」
「うう、いいよ、体調崩している人に気を遣われるなんて。」
そんなさくらさんの顔でも見ていると、気が楽になる。その後も私はさくらさんに食べさせてもらって、お粥を完食する。食べ終わった食器を片付けて、次に持ってきたのは、2Lのペットボトルとコップだった。
「スポーツドリンク買ってきたから、これを飲んでたくさん汗かいて、熱を下げよう。目標は一日これ一本だよ。」
「ええ。それは無理だよ。」
「大丈夫。私も少し手伝うから。さあ飲んで飲んで。」
さくらさんはコップに注いで差し出す。でも、飲もうとしない私を見て、
「ああ、そっか。飲ませてあげようか?」
と、なぜかさくらさんは喜んでいるようだった。
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