第5話 咲く桜と咲かないさくら

 4月19日木曜日。今日の天気は晴れていた。青い空を大きな水たまりは写している。今日の講義は二コマ目からだったので、私が家を出る頃には太陽はずいぶんと上がっていた。そこらじゅうがキラキラと水滴が反射して光っていた。そろそろ桜の木々は花を咲かせようとしている。

「さくら・・・。さくらさん・・・。」

 そんな桜を眺めてぽつりと一人つぶやく。今週末には桜は咲く予定なのに私とさくらさんの仲はまだ花が咲きそうにない。天気とは裏腹に私の心はまだ曇っていた。

 本日最初である二コマ目の講義は基礎ゼミ。この科目は高校から大学へと学習をシフトするために一年生が必ず受けなくてはならないものである。主に、レポートの書き方やプレゼンの仕方、卒論の調べ方や書き方などをやる。それに応じて調べ学習やレポートなどの課題が出されていき、最後には発表するという経験型のスタイルだ。そして、この科目は小さなクラスに分けられる。基本は希望制だったのでさくらさんと同じクラスにしていた。でも、今は本当に気まずい。1クラスだいたい10人から20人くらいの少人数体制。もしかしたら英語よりも少ないかもしれない。ほかの人たちはみんなそれぞれ束になって一緒に座っているのに、私とさくらさんは一人で座っていた。そんな気まずい授業を切り抜けてお昼休みに入る。お昼は今日も購買で買って済ませる。食堂はもう行けない。あそこはぼっちを受け付けていないだろう。外までワイワイ話す声が聞こえてくる。暇になった時間はトイレに行ってスマホをいじって過ごした。

 三コマ目はコミュニケーション英語Ⅱ。達者な外国人講師による授業。正直、何を言っているのか理解するまで時間がかかりすぎてついていけない。もうカチカチになって受けた。四コマ目。これで本日、そして今週の授業は最後である。その科目はスポーツ。最後に一週間分のストレスを発散できる。でも、運動が苦手な私にとっては微妙なところ。まあ、一週間の最後で良かった。疲れるけどこれが終わったら休みだし。更衣室にてジャージに着替えて集合場所であるグラウンドに行くはずだったのだが、昨日の雨でグラウンドがぐちゃぐちゃのため場所が変更され、柔道場になった。ちなみにこの科目も選択式で、運動が苦手で疲れるのが嫌な私はもちろん、さくらさんとともにニュースポーツというものを選んでいた。そして、今日はここでダーツとシャッフルボードというものをやるらしい。男子たちがパシリに使われて用具が運び込まれ、それを私たち女子がある程度セットする。それから、先生に競技の説明を受けて、チーム分けされてそれぞれスタートした。私はさくらさんとは同じチームにはならなかった。この2つの種目はとても楽しかった。これからは雨とかでグラウンドが使えない時はこれをやるらしい。これならやっていける。楽しい時間はあっという間に過ぎて四コマ目が終わった。着替えを済ませて家に向かう。歩いているとなんだか力が抜けてきた。なんか息切れがして、とても疲れる。まさかあれをやって疲れたのかな。でも、頭もなんか痛くなってきた。これはもう体調が悪いとしかいいようがない。とりあえず家に頑張って歩いて帰る。体温を測ってみると、やっぱり熱があった。昨日の雨で風邪を引いてしまったようだ。家着に着替えてすぐに横になって寝た。

 目が覚めると、寝る前と変わらない風景が広がっていた。時計を見ると、日付が変わって金曜日になっている。まだ熱は下がっていない。とりあえず何か食べないと。立ち上がって冷蔵庫の中を覗く。でも、しばらくコンビニのお弁当で暮らしていたので、冷蔵庫の中はほとんど何もなかった。何か買ってこようかと思ったけれど、この調子では無事にたどり着けるかどうかあやしい。仕方なく、水だけ飲んでまたベッドに戻って横になった。

 きっと桜はもう咲いてお花見日和なんだろうな。さくらさんと一緒に見たかったな。一人で見るどころか、今年は見ることができないかもしれない。


 気がつくと辺りは暗かった。ぼんやりとした目で暗闇を見渡す。それから、立ち上がってふらふらとしながらトイレに向かう。そこでしばらくボヤーっとしながらも思考を巡らした。今は何時で熱は下がったのか、それからどうにかして何か食べないととか生命に関わる重大なことを考えていた。とりあえずトイレから出たら熱を測ってみた。

「38.2℃…。」

 前より上がったような気がする。

「ああ、そうだ。タオルを濡らして頭に置けばいいんだ。」

 電気もつけずに暗がりのなかあちこち壁や物にぶつかりながらもごそごそとタオルを探す。畳んである洗濯物のなかからタオルを見つけ出した。洗面所で濡らして力ない手で絞る。ベッドに戻る前に水を少し飲んで、ベッドで横になり頭にタオルを置いた。だいぶ濡れていて水が若干垂れてくる。でも、そんなのに構っている余裕はなく、そのまま寝てしまった。

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