第4話 雨音

 4月18日水曜日。朝から雨が降り、気温は低く寒い日だった。暖かめの格好をして、傘をもって家を出る。外はだいぶ雨が降っていて、水たまりも大きくなっていた。傘を差して1人、大学へ向かう。でも、途中で道を間違えたらしく、知らないところに来ていた。スマホを出して、マップを確認し、知らない道を通っていくと大学の敷地内に入ることができた。そこから勘をたよりに進んでいき、なんとか知っているところまで来れた。そんな感じで講義室へ向かった。今日の一コマ目は昨日と同じ、地域政策入門だった。でも、私とさくらさんは別々の席に座った。もちろん、私は1人。反対にさくらさんは誰かほかの人たちと一緒だった。さくらさんのことは放っておいて授業を受けた。二コマ目は民法総則という科目だった。この授業も一コマ目と同じ場所で行われるので、私はそのままその席にいた。さくらさんはというと、一緒にいたほかの人たちと別れたと思うとすぐに他の人が入れ替わりにやってきて賑やかにしていた。対してこっちは相変わらずのぼっち。だって、さくらさん以外の人とさくらさんがいないところで話したことがないんだもん。つまり、今まで話しかけてくれてたのはさくらさんが一緒だったからということなんだろう。二コマ目も終了し、みんなはお昼を食べに動き始める。さくらさんもあの人たちとともに講義室から出ていってしまった。1人残った私は仕方なくではなく、購買に行っておにぎり2個とお茶を買って空き教室に行って食べた。

 別にさくらさんがいなくたってやっていける。私1人だけでも十分やっていける。

 と心の中でそう唱えた。


 昼休みが終わり、三コマ目が始まる。三コマ目は英語総合Ⅱ。英語は少人数制をとってるから、どうしてもさくらさんが目に付いてしまう。この時間は居眠りのゴールデンタイムでもあったが、さくらさんのことを気にしずきて、寝ることもなく、授業にも集中できなかった。さて、四コマ目は空きコマだった。それで、特にすることもなく、さくらさんはどこかに行ってしまうし、暇だった。スマホをいじって無駄な時間を過ごし、5コマ目を迎えた。5コマ目は法学基礎という科目。この授業では国民として知っておいて損は無い法律や憲法について、最低限の知識を身につけるための内容だった。私たちは法学を専攻していく予定なので、半分くらいは知っている内容だった。だから、言ってしまうと超ラク。期末試験もきっと楽々クリアしてしまうだろうと思っている。一日の終わりを締めくくるボーナスタイムが終了し、私は家に向かう。本来ならば、夕食に学食で食べていくのだが、やっぱりそんなことはできない。とにかくさくらさんとは近寄り難い。だから、昨日と同じようにコンビニで何かを買って帰って食べる。まあ、家の方がさくらさんと近いのではと思うけど、1階と2階とでは一緒にいるとは言えない。同じアパートに住んでるとはいえ、同居しているとは言わないのと同じ理屈だと思う。

 雨は相変わらず降り続けている。その雨音が私を孤立させ、私だけの世界に仕立て上げる。コンビニまではそう遠くはない。コンビニに着くと、賑やかな店内を流れるメロディと店員さんの声が聞こえてくる。ここで私は1人の世界から逃れられる。昨日とは違うお弁当を買って、さらに唐揚げを買っていく。ホカホカとしている唐揚げを今すぐ食べたかったが、お弁当と同じ袋に入れたまま、コンビニを出た。再び傘を差して歩き始める。すると、次第に雨が強くなっていった。豪雨となった雨音は完全に周りの音を遮断した。水たまりは朝よりも大きくなっていて、歩くところがなくなるくらいだった。水たまりを避けるのに夢中になっていると、前から来る車に気づかなかった。そして、その車は私の真横を通って水たまりの水を私にかけていった。せっかく水たまりを避けて歩いたのに、傘も差してるのに。ため息も出なかった。家に着くと、買ってきた夕食をテーブルの上に置いて、びしょ濡れになった服を脱いでシャワーを浴びた。冷えた身体が暖まるまで浴びたら、家着に着替えて食卓に戻る。買ってきた唐揚げは冷えて冷たくなっているどころか雨で濡れていた。お弁当も容器は濡れていた。容器は軽く拭き取ってから電子レンジで温める。唐揚げも電子レンジで温めて食べてみたが、味は落ちていた。最後に温かいココアを作って飲んだ。甘い感じで包まれて抱擁される。その後はシャワーを浴びた時に沸かしておいたお風呂にゆっくりと浸かり、一日の疲れを洗い流す。

 明日は晴れるといいんだけどな。そういえば今日一日、コンビニ以外で誰とでも話していないような。このままだと私、どんどん陰湿な人になっていくんじゃ。ああ、どうしよう。さくらさんとどうやったらうまくいけるのか全く分からない。本当にこのまま放っておいていいのかな。これでどうにかなるようなことじゃないような気がするけど、でも、こちらからは何もしたくない。さくらさんの方からなにかしてくれればいいのに。

 そんなことを考えていると、雨の音がまた大きくなり始めた。今日はもう寝よう。お風呂から上がり、身体を拭いてパジャマを着る。髪をドライヤーで乾かしてベッドに行く。部屋の電気を消して、布団に潜り込んだ。暖かい布団、だけど、まだ物足りなく感じた。

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