第29回青白い惑星に立ち

絵里江さんの残したメモにはこう記してある。


「旅に出てきます。家賃は前払いしてるので、本城さんはここで暮らしていてください 絵里江」


ベータは「あしたのジョー」のラストシーンみたいに椅子の上でぐったりする。


暑さの疲れがどっと出てきた。クーラーを点けるのもかったるかった。


ベータは冷蔵庫からヨーグルトを取り出して、ゆっくり食べる。


食べ終えてから、また肩の力が抜ける。


ベータは皮肉な笑みを浮かべ、机に突っ伏して眠る。





8月11日(木)


「だめ、だめ、だめ!あんたの持ってくる小説はうちには合わない!」


「目だけでも通してもらえませんか?」


「だから他の出版社当たりなよ」


「ここで10社目です」


「じゃあ、その程度の小説なんじゃないの?こないだは物のついでに読んだけど、どこでも同じだろうが、基本素人の書いた持ち込み原稿は受け入れてない。公募ガイドでも買って賞を取りなさいインターネットでも同じようなの募集してると思うよ。私の言えるのはここまで」


世間は冷たいなあ、出版社は冷たいなあ、天国口高校OB北島守は気を落としていた。


北島は同級生の野上薫子と大学卒業後結婚したが、就職の内定は取れず、野上の方は既に就職していたが、北島は密かに夢見ていた小説家への未練が断ち切れず、バイトをしながら、執筆活動をしている。


薫子は夜8時か9時頃に帰宅して、机に向かってる北島を見て、ため息が一つ。


「私は夕食済ましたけど、夜食でも作る?」


北島は手を上げて「お願いするわ」と言う。


薫子はまたため息を一つ。






8月12日(金)


天国口高校の2年A組学級委員守屋瑛太郎と、恋人の如月美津菜は2人で教室でだべってる。


「しかし、効きの悪い冷房だ。お前もよく本なんか読めるな?何読んでんだ?」


如月は面倒臭そうに「ライトノベル」と返す。


「ライトノベルって何?」守屋の予想通りの返しに如月は「本をほとんど読まないあんたには説明しづらい」と答える。


「ふ~ん。相変わらず冷たいお方」


如月は無表情。


いつものことなので、守屋は気にしない。


「本か~グラビア雑誌なら見る気するけど、活字はきついな」


そう言って守屋はアイドルグラビア雑誌を取り出して見てる。


校庭は蝉の鳴き声が何十にも重なり、夏休み真っ盛りという雰囲気だった。







我道幸代は異母妹で、年は同じの岸森明日菜と電話していた。


「あんたも凄いよね。永遠のジプシーって感じ。今どこにいるの?」


「今旦那と尾道にいる。あたしも携帯持ったの最近だから、電話してみたけど、もう6年も会ってなかったんだっけあたしたち?」


「そうよ、あんたアフリカから戻って、また旅立ったじゃない?行きずりの人と結婚したってのは風の噂で聞いたけど」


「結婚したことになるのかな一応」


「私なんて数日前に本城センセにフラれたわよ、まだ諦めてないけど」


「そういえば、あたしの旦那と本城先生同い年だわ」


「お互い年上の方が都合いいのかな?」


「わからない。でもあたしに対して最初の頃、まるっきり子供扱いだったな……」


「可愛くてしょうがないんじゃない?東京には戻ってこないの?」


「いつになるかわからないけど、旦那の実家は東京みたいだから戻るんじゃない?」


「また電話してよ」


「うん、わかった。バイバイ」


電話を切ってから、我道は空疎な部屋を眺めた。やっぱ一人で暮らすには広すぎるな。引っ越そう。





月にいるアルテミスはアポロンからの連絡で、ある巨大な彗星が地球に接近していて、衝突する可能性があるという驚愕の事態を知る。


2017(H29)9/22(金)・2019(R1)12/14(土)























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