第9回THE POINT OF LOVERS‘ NIGHT
取っ組み合いをしている片方は天国口高校の同級生の北島守だった。
欅坂は仕方なく、人混みを掻き分け、恐るべき力で2人を引き離した。
両方とも目が真っ赤で、息が上がっていた。
北島の喧嘩相手は20代後半くらいの痩せた男。2人は戦意を喪失していて、痩せた男は足をフラつかせながら、立ち去っていった。
「大丈夫か?北島」
北島はしばし朦朧としているが、「お前確かC組の奴だよな?名前は……すまん思い出せん」
「欅坂だ。なんで喧嘩してたのか知らんが、もう平気だよな?」
「ああ、すまんな」
欅坂蓮次郎はその場を離れる。
一方本城ベータは映画製作が頓挫してからは、仕事はなく一応7月分の給料は出たが、どうしたもんかとファミレス・ジョナサンで求人誌をパラパラめくってる。
「おやおや、本城さんじゃないですか?」
映画スタッフADの坂本弓枝だった。
「ここ座っていいですか?」
「ああ、どうぞ」
坂本はドリンクバーを頼んで「本城さん仕事探してるんですか?なんか映画の製作8月から再開のめどが立ちそうですよ」
「え?そうなの?」
坂本は笑顔で頷く。Tシャツにジーパンというラフな格好で健康美人という所か……。
「本城さん、本命がいるの知ってるけど、私と間違い起こしません?」
「へ?」ベータは顎が外れそうなほどガクッときた。
「前から気になってたんだよな、あのミスユニバースみたいな彼女さんを射止めたあなたのこと……」
「君いくつ?」
「23歳ですけど」
「俺が幾つか知ってる?42よ」
坂本は手を振って「そんなこと関係ない、19歳差がなんですか、珍しくないでしょう。それとも私に魅力がないのかな?」
またまた……まぶしいほどの魅力を振りまいてる自覚はないとは思えんぞ、我道や岸森の時も思ったんだけどなんでこんな冴えない男が一回り以上違う若い娘にこれほどモテるのか?
「いやいや十分魅力的ですよ。でもこんな冴えないオヤジより君に相応しい相手はいると思うよ」
坂本は頬杖をついて「でも本城さんあんな若い彼女がいるじゃないですか?それに本城さんは十分イケてますよ。私現場の女の子の中で隠れ本城ファン3人くらい知ってますよ」
またか……天国口高校の頃の悪夢がよみがえってきた。
「で、具体的にどうすればいいの?」
深夜のファミレス。人はまばらだ。坂本は顔を近づけ、ベータの首に手を巻きつけ、キスしてきた。とびきりディープなやつだ。坂本は遠慮なく舌を絡めてくる。
1分ほどでベータから離れ、「やっぱ、予想通り本城さんキスが上手。若い娘は一ころだわ」
今更いいわけできんわな。
「本城さん、私の部屋来ません?」
「なんか役割が違う気がするんだけど」
「もうキスした仲じゃないですか……色々聴きたい事もあるし」
「はい、はい、はい」
7月28日(木)
ベータは朝6時に目を覚ます。一瞬どこにいるか認識できなかったが、隣で坂本弓枝がすやすや眠ってるのを見て、手で顔をバシッと叩く。
坂本の家は物がまばらに置いてあって片付ければ相当小奇麗な部屋になりそうだ。
もう一寝入りしよう。
伊藤影道と朝久里映見は車の中で一晩を過ごす。
「もう10時影道お腹空かない?」
影道は映見の右手を握り見つめていた。
「どうしたの?」
「映見は俺が一緒になってくれと言ったらOKしてくれる?」
「何よいきなり……寝ぼけないで……」
「どうなの」
「影道もいじわるよね、私の気持ち知ってるくせに」
「じゃあこれは新婚旅行だね……」
映見はぽろっと一粒涙を落とす。
ホテルで缶詰め状態の映画監督愚連京介。パソコンと格闘中で映画のクライマックスの仕上げに熱中して、昨日も寝てない。芸能記者修羅悦郎はソファーでいびきをかいて熟睡していた。
”今は辛抱の時”ジェダイマスターのクワイ・ガンジンは幼きアナキン・スカイウォーカーにそう諭すんだよな。
携帯の着信音が響く。「あれマナーモードじゃなかったっけ?」着信音は”ダースベーダーのマーチ”
「げっ、まさか?」
崎守女史からの電話だった。
2017(H29)2/11(土)・2019(R1)12/3(火)
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