第8回 IN THE HEAT OF THE NIGHT

愚連が恐る恐るドアを開けると、映画スタッフのADの一人坂本弓枝が立っていた。


「崎守マネージャーから伝言です。今月中に脚本を仕上げてほしいそうです」


「よくここがわかったな……缶詰め状態には違いない。崎守君には何とか間に合わすと伝えてくれ」


AD坂本は一礼して立ち去る。


「修羅、お前だろう?この場所崎守女史に漏らしたの?」


修羅はまた汗を拭い「いやいや先生そんなことしませんよ……崎守さんの方が一歩も二歩も我々より上手ってことじゃないんですか?」





7月27日(水)


天国口高校の2年A組の学級委員長の守屋瑛太郎はこの暑い中慌てて走っていた。暑すぎて、頭が朦朧としてる。


蝉の鳴き声がサラウンドに耳の中に飛び込んできて守屋は空を仰いだ。


今にも太陽が落ちてきそうな錯覚に陥った。いかん、熱中症になっちまう……。


守屋は木陰で休憩した。喉ガカラカラだが自販機が見つからない。時計を見ると昼の1時。


プールで小学生達の奇声が聞こえる。


天国口高校に着いたのは昼1時半頃だった。校庭では女子サッカー部が軽めの練習をしてる。


教室に入ると如月美津菜が机で漫画を描いてる。「遅い!30分遅刻だよ!」


「悪い、悪いこれでも急いで来たつもりなんだけど」


守屋は短髪のイガグリ君だが如月は長髪のグラビアアイドルのようなスタイルのいい美少女である。


守屋は漫研の副部長をやっていた。如月も漫研に所属していて将来の夢は漫画家だった。


「新作かい?」


「まだ構想中よ」


教室は陽射しが差し込んで、熱気が充満していた。


「また駅前のサイゼリヤでも行くか?」


如月は漫画に集中していて答えない。


守屋は美形揃いのこの高校でもトップレベルの如月とは中三の頃からの腐れ縁だった。


ブリリアントブルーに染まるこの教室の窓際で漫画に集中する美少女。


映画のワンカットのようだ。


「とりあえず腹減ったから先にサイゼリヤ行ってるぞ?」


如月は手を挙げて答える。






”夏深し、うだるような暑さ


空調効かない職員室


昼飯そっちのけで


隣りは何する人ぞ!”


「こら、浦兼好恵、24歳!へばってないで仕事しろ!」


「希林先生、ビール飲みたい」浦兼は机に突っ伏す。


「それは言いっこなしでしょ」


「生田先生のストック貰ってこようかな……」


希林は浦兼を睨み付ける。


「わかりましたよ……そんな怖い顔しなくてもいいのに……アラフォーの貫録……」


「なんか言った?」


「いえいえ、別に」浦兼は仕事に戻る。





沈黙の貴公子〝欅坂蓮次郎”はファッション雑誌の編集の仕事に就いていた。


10代後半から20代前半は専属モデルだった。


当然追っかけは多い。今日も2,3人ついてきて,撒くのに苦労した。


夜7時に天津玲奈と駅前で待ち合わせしていた。駅に向かって歩いてると人だかりができてる。


どうやら男が2人押し問答してるようだ。


この暑いさなかよくやるなあ……と呆れてる。夜7時近いのにまだ空は明るい。


”おいら流れ流れて


この街に流れ着いた


電話しなくちゃ


携帯のバッテリーもない”


アコギでストリートミュージシャンが歌う。


男2人はついに取っ組み合いになった。


”うん?”1人が見覚えのある男だった。


2017(H29)2/10(金)・2019(R1)12/3(火)










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る