第4回LONELINESS SUMMER SORROW

2013年8月12日(月)


~ラブソングにもう一度……耳を向けてほしい~


千川武人は昼からアコギで曲を作っていた。


曲は出来てるが、歌詞があやふやだ。


天国口高校の校庭は野球部が練習してる。明らかにキャッチャーの防具をつけてる生徒と均整の取れた内野手風の生徒が、教師と話してる。


今日も暑いが、木陰は若干涼しい気がする。さて所持金2500円。親戚の家にも毎食後馳走になるのも悪いので、外食だな。


小一時間ギターを弾いていた。さっきの野球部の生徒と話していた教師が裏門の辺りで携帯電話を見てる。そのうちAKB48にいそうなアイドル顔した生徒が教師に抱き着く、教師は慌てて校舎の影に生徒ごと隠れる。


生徒は教師に強引にキスする。かなりディープなやつだ。教師は2分後くらいにやっと生徒の唇をひっぺがえす。


3,40メートル離れてるので、どんな会話になってるのかわからんが、生徒の方が積極的なのは間違いない。やりよるな、あの教師。歳の頃30代半ばという所か……。


生徒がまたキスをせがんでるので、教師は辺りを見回し、裏門から生徒を引きずって、出る。まあ先生と生徒のそういう関係は珍しくはないだろう。千川は至ってドライだった。





さすらいの不登校野郎2年A組流水荒太はここ数日ぼ~っとしてる。ネット上のコミニュティにも参加せず、寝るか、卓上椅子に座って硬直していた。


”神もキスはする”岸森明日菜と謎の男のキスシーンが頭の中でリピートしていた。ステレオで音楽でも流そうと思ったが、ステレオまで手が届かなかった。


夕方荒太の母咲江が「仕事行くけどあんた最近ちゃんと食事取ってる?冷蔵庫にシチュー作っといたから、適当に食べて」荒太はうつろな目で「母さん今日も若いね。20代に見える」咲江は嬉しそうな顔をするが、「ありがと、でもあんた、髪の毛切ったのはいいけど、目付きがよくないわね。大丈夫?」


荒太は力なく、「2学期からはちゃんと登校するつもりだから」そう言って、パソコンの電源を入れる。


「そう、まあマイペースでね」咲江は少し心配したが、仕事モードに切り替わる。


荒太は洗面所で洗顔料を使って顔を洗う。少しすっきりする。


台所で咲江の作ってくれた料理を平らげ、自室のパソコンに向かいコミュニティにアクセスして数日のブランクを埋めるつもり。


荒太は心の中でずっと泣いていた……岸森明日菜像が粉々に崩れてしまったのである。本当は大声で泣きたかった所だが、大声を出す気力も湧かなかった。今は気を紛らすので精一杯。






天国口高校の英語教師希林直美は33歳。ルックスは地味でも派手でもない、でも味のある美形と言えよう。


汐留先生の絶対的美貌の影になってるためほぼ目立たない立ち位置。数学の猪狩先生に誘われて飲みに行ったことがある。猪狩先生は酒癖が悪いと聞いていたが、瓶ビールを2本飲んだ時点で、明らかに言動がおかしくなった。


「希林先生は決まった人はいるんですか?」とか「自分も今年で34です。新しいステップを踏みたいです」などもろお誘い文句が続く。


希林も結婚を考えないわけはないが猪狩先生は相手として対象外である。


「私そろそろ帰りますね」と言い席を立つと、猪狩先生は腕を引っ張って席に戻す。「まだ話は終わってません」


これはヤバイ状況だと希林は焦る。絡み酒ではないか……。


結局夜11時まで付き合わされて、帰り道で目が据わってるが、足元はフラフラしてない。人通りの少ない道に入ると、猪狩は突然希林の正面から肩を抱き、キスしようとする。もちろん希林は拒むが凄い力で、「校長に言いつけるわよ!」一瞬猪狩の力が緩んだ。その隙に希林は腕を振りほどき、逃げる。


何分走ったか、人通りの多い所に出て振り返ると猪狩の姿は見えず、ほっとする。


それが夏休み前の7月下旬。それ以来猪狩先生とは口を聞かず、一方的に無視してる。


夜駅前のショットバー”ゼットン”で希林はカクテルを飲んでいた。これといって決まったボーイフレンドのいない希林は若いバーテンダーと話をするのが楽しみになってる。


女33歳まだまだイケるわよ……。






2年A組の桂崎哲史は夜中11時半に喫茶店”シューベルト”で夏休み中の勉強の計画を練っていた。綾女悦子から3回くらいメールが来てるが無視して、集中していた。


小休止して窓の外を見ると、登戸と雨宮のカップルが手をつないで歩いていくのが見えた。桂崎の頭に中は天津玲奈のことで一杯だった。綾女とはもう別れたかった。悲しそうなBGMが流れてる。クラシックである。


自分罪な男なんだろうか?星のない空の下のひとり想いである……。


2016(H28)5/17(火)・2019(R1)11/24(日)

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