第49回僕らのゆく道

その男は旗を振り続けながら、行進していた。


どこに向かおうというのか?


霧の舞い散る黄昏のレンガ道を。




「勧善懲悪の映画を撮れって?それ無茶振りだろ……」


「スポンサーの意向です」


「君、何年俺のマネージャーやってんの?俺が普通の映画撮らないの知ってるだろ?」


「あくまでスポンサーの意向です」


愚蓮は頭を抱えた「まだ脚本も出来上がってない。そのスポンサーには降りてもらってくれ」


「了解しました」


相変わらずレプリカントのような佇まいで崎守女史は去っていく。


愚蓮はさっき飲んだスコッチウイスキーの酔いが冷め切ってない。


俺もイタリアに生まれてりゃよかったな……もっと自由に映画が撮れてたろう……。


なんか酒のせいか視界が歪んできた……。





気が付くと向かい側に女優の広永玲子が座っていた。


「愚蓮さんそろそろ本編が始まりますよ」


「誰もが主人公ってことか……」


「私、絶対主演女優!」


「誰もが主演でしょ……俺ですら……」


「3つくらい仕事蹴って駆け付けたんだから責任取ってよ」


「もう始まってるのか?」


広永は立ち上がり、手を差し伸べる。


愚蓮も立ち上がり、両手をつなぐ。


広永はチークダンスを踊り始める。


ぎこちないものの愚蓮も合わせる。


2人は踊りながらホテルの廊下へ、廊下には崎守に修羅悦郎、愚蓮の映画スタッフがギャラリーになってる。


崎守が「映画を撮りたがらなかったわけだ」


修羅が「現実そのものが映画なわけですな」


愚蓮はステップを踏みつつ、広永を見つめる、そしてキスをする。


修羅が「しまった!カメラがない!」


崎守が「悔しいけど、マストロヤンニに引けを取ってないわ」


愚蓮は踊りながら叫ぶ「ブラボー!」





「結局ゼウス様はまた人間を許すんでしょ?」アルテミスはアポロンに言う。


「放っておいても、自滅するのをわかってるんだろ」


「人間が神の領域に達することってあるのかな?」アルテミスはアポロンの反応に興味津々。


「結局人間は一人一人の中に神がいて、誰もが世界の中心であり、誰もが主人公ってことだろ……」


アルテミスは地球の青さを確かめて「ゼウス様は人間にも救いがあり、愛は死ぬことはないと判断したんだね」





その男はひたすら旗を振りながら行進してる。


その男は10歳くらいにも見えたし、40歳くらいにも見えた。


霧はすっかり晴れてきた。


男はベレー帽を揺らしながら行進し続ける。


2016(H28)4/18(月)・2019(R1)11/21(木)





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