第28回FREE AS A BIRD
8月12日(火)
天国口高校体育教師、生田直樹37歳。今時珍しい体罰教師だが、彼の泣き所は3年A組担任の汐留先生だった。
もともと美女だらけのこの高校で、ギリシャの女神のような美しさは高校生のガキンチョとは比較にならない。
実際この高校、生徒以外の女性職員もみな美形だ。英語教師希林先生も地味だがイケてるルックスだ。
今学期から新任教師として入ってきた吉本月子先生も今風の美女だが、まだ25歳くらいらしく、若すぎる。
汐留先生を想うと生田はメロメロになってしまう。言葉を交わしたのは数回だが、彼女の美貌に見入って、何を話したのか覚えてない。
新任の伊藤影道、通称”シャドウ”の存在は天国口高校の男子なら全員が面白くないはず。イケメンでスレンダーで、完璧な身のこなし・・・女子にとっては白馬の王子だ。
彼が廊下に出たら5,6人の女子が彼を囲んでいく。しかしあの我道幸代とデキていたとは……。
学園内は大騒ぎだが、天国口高校一の美男美女が一緒になったわけだから、なんか有無を言わせない展開だし、禁止処分でしばらく高校に来ないらしいが、それでもシャドウの下駄箱はラブレターで常にすし詰め状態。
こんな生田にも一度だけラブレターが届いたことがある。Y子としか書いてないので、誰かはわからない。手紙の内容からして、汐留先生じゃないことは確かだった。
ああ、彼女が振り向いてくれたらなあ……。生田は硬派で通ってるが、所詮男やもめの現実というのも、みじめなもんだ。
月ノ輪哲郎は昨日バー”リデル”で我道の媚薬にクラッとなり、水割り一杯で帰ってしまった。
とにかく無類の本好きの男で、暇さえあれば本を読む。鞄には常に5冊くらいの本が入ってる。
夕方駅前のエクセルシオールコーヒーで本を読んでると、店の前に黒いバンが現れる。月ノ輪は本を閉じ、黒いバンに乗り込む。
3年A組学級委員北島守は夢のような日々を送っていた。もはや大学受験など眼中になかった。自分も高卒で働き出そうという気にもなっていた。
付き合い出してまだ3日である。彼は至福の時を過ごしていた。今迄話せなかったことを夜を徹して話した。なんでこんなに言葉が出てくるのか、単に舞い上がってるだけなのか?
今日も立川のサイゼリヤで夜11時まで話して、帰り道で人がいないのを確認して北島は野上の華奢な体を抱きしめる。
そして唇を重ねる。唇を離した時、野上の顔は紅潮していた。「泊まる所がないの」北島は財布の中を覗き、またラブホテルへ行くことになった。
一緒に湯船につかり「もう1か月くらい自宅に帰ってないの」野上は北島に近づき肩に寄り掛かる。
「一度帰った方がいいんじゃないか?」
「お父さんとはメールのやり取りしてる。再婚相手とも離婚するみたい」
「そうか……ママハハとその連れ子がいなくなれば、無理に家を出る必要はないんだろ?」
「そうね……大学進学も視野に入ってくるかな……」
それから2人は徹夜で話し続けた。
8月13日(水)
我道幸代は朝7時に本城ベータの家に乱入してきた。
「随分早いな、また朝飯でも作ってくれるのか?」
「それもあるけど、センセにとっては朗報があるわよ」
「朗報?」
「明日菜が日本に帰ってきたのよ」
「岸森が?」
「高校に戻るのは無理かもしれないけど、早く捕まえとかないとまたどっかに旅立っちゃうよ」
「ふむ」
「あの子一段と女っぷり上がってたわよ」
「うむ」
「あんま嬉しそうじゃないね?」
「いや、そんなことないんだが……」
「とりあえず朝ご飯にしましょう」
ベータは岸森明日菜とまた対峙するイメージが湧かない。
小さな雀のようにまた指と指の間をすり抜けて、飛んで行ってしまう気がした。
確かにベータの勘は当たっていた。
2015(H27)6/29(金)・2019(R1)11/13(水)
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