第29回沈黙のメソッド
8月14日(木)
大学通りの片隅にやけに目立つ黒いバンが止まってる。
グラサンに黒いスーツの男が2人降りてくる。汗一つ掻いていない。
「グリーンやピンクの目から逃れました」
後部座席で無精髭のグラサン男は助手席の長髪のグラサン男に話しかける。
「何も今更逃げる事もあるまいに……」
「だが、ブルーあの子は特別だ」レッドは呟く。
外の男2人はピンマイクで、「はい、立川市錦町、はい」
ブルーとレッドは振り返る。
「どうした?」ブルーは身を乗り出す。
「はい、岸森明日菜は消えたそうです」
「逃げ足の速さも神憑りだ」レッドは笑う。
ブルーは顎に手を当て、「彼女は本当に我々から逃げてるんだろうか?」
「さあね、もうグリーンもピンクも当てにならん、我々で動こう」
レッドはそう言い「イエロー、車を出していいぞ」
「了解」
外の2人もバンに乗り込み、発進。
「どうも我々の周辺はおかしなことばかり起こるよな?お前もそう思わんか?」ベータは息をつく。
「まあね、SFっぽかったり、村上春樹っぽかったりするね。もう慣れたけど」我道は眠そうに伸びをする。
「お互いここまでしか話せないという事情はある」
我道は頷く。
「ここん所”世界はあなたの出方次第”という変なメールが送られてくる。どこから送られてくるのかはわからん」
「本城センセは救世主なのかな?年齢が行き過ぎてる気がするけど……」
「ところでお前は大学へ進学するのか?」
「うーん……」我道は目を天井に向ける……「働き始めちゃおうかな?……センセに嫁いで……」
「シャドウ先生はいいのか?」
「あの人は多分私とは結婚しないと思う」
「ふーん、まあいいけど……」ベータは我道と一緒になってもいいと思い始めてる。
「私がセンセに嫁ぐのはいいとして、明日菜はどうするのよ?」
「あいつは”イントゥ・ザ・ワイルド”な奴だから俺の手にはおえない」
「ふーん、じゃあ市役所まで婚姻届貰いに行く?」
「まだ、市役所開いてたっけ?」
「多分」
「でも、そんなに慌てて結婚しなくてもいいんじゃない?」
我道はコーヒーを飲みながら「そうだね、今も一緒にご飯食べてるし」
「でもこんな無職の36歳のおっさんが相手でもいいのか?」
我道は口元を少し緩めて笑うが、答えない。
夕方の立川のサイゼリヤで慶事紀之と初音君也と宝田舞音はお茶しながら、話してる。
「君也、宝田に聞いてもいいだろ?そろそろ……」
初音は一瞬舞音を見る。舞音はきょとんとしてる。
「いいよ」と初音は呟く。
慶事は舞音の方を向いて「今迄言い出しづらかったんだけど、栄華武蔵先生ってどんな人なの?」
舞音は驚いてるわけではないが、目を曇らせる。
「あの人はサタンよ。沈黙のサタン」
慶事と初音は目を合わせる。
「そんなに悪い事する人なの?」慶事が聞く。
「詳しくはわからない。私は何度か喫茶店で会ったけど、悪魔臭がプンプンするのよ」
「悪魔臭?有害なの?」初音が聴く。
「君也さんには黙ってたけど、あの人に女性たちが惹きつけられるのも、あの悪の匂いのせいなの。気付くまで少し時間がかかったけど」
「舞音は被害に遭ってないんだろ?」
「私は大丈夫。何度か危なかったけど……乗り切った。心配なのはサファイア先輩よ」
「ああ、あいつ相当入れ込んでるもんな」慶事は言う。
初音は内心ほっとした。心に絡まった糸がほぐれた気分。
3人はそれからも夜まで話し続ける。
月ノ輪哲郎は駅前の喫茶店シュベールにいる。また本を読んでる。
10分後に我道幸代が入ってくる。
「よく私の携帯番号わかったね?何を企んでるの?」
月ノ輪は本をしまい「君は自分がダークサイドにいると思う?もしくはライトサイドにいると思う?どっち」
我道は首を傾け「それって答えなくちゃいけないこと?」
「無理にとは言わない」
「大体メルアドも交換してない人から呼び出されてそんな変な質問受けて、まともじゃないよ……」
ウエートレスが来るが、我道は注文せず、すぐ帰ると言う。
我道は月ノ輪の反対側に座り、「あなた影で何してるの?高校生に見えないよ?」
月ノ輪は黙り込み、我道との視線を逸らさない。ポーカーフェイスだ。
「私帰るね」そう言って我道はシュベールを出る。
月ノ輪は何事もなかったようにまた本を開く。
8月15日(金)
天国口高校の掲示板に”伊藤影道先生退職"と張り紙が出される。
生徒達は本格的に我道と一緒になるつもりなんだろうと予測していた。
我道とシャドウの関係は予想外の展開になっていた。
2015(H27)7/15(水)・2019(R1)11/13(水)
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