第24回立川駅、血に染めて……

8月8日(金)


伊藤シャドウは女友達朝久里映見と立川で昼食を取っていた。もともと大学のサークルで一緒の仲間みたいなもので、恋人のような間柄ではないし、そういった雰囲気になったこともない。


映見も御多分に漏れず今風の茶髪の長髪美女で一緒に歩いてると大抵の男は振り返る。


「影道は学校でシャドウって呼ばれてるんでしょ」


「そうだね、なぜかシャドウで通ってるね」


「ふ~ん」


「映見は仕事順調なの?」


朝久里映見はアパレル関係の事務をやってる。


「まあね、順調って言えるかな?」


映見の目が少し曇ったように感じる。気のせいか?


もともと映見の方から誘ってきたので、彼女の方で何か話したい事があるのかと思った。しかし何も言ってこない。


「とりあえず出るか?」2人は大戸屋で食事を済ませ、エスプレッソ・コーヒーを飲んでいた。


「うん」


HMV立川へ寄りブルーレイを物色する。


「影道は映画なんか観るの?」


「まあね……」


「あっ、この映画よかったなあ」


「何々?」


「シザーハンズよ……ファンタジックで、私泣いちゃった」


映見は夢中で棚を見てる。


結局シャドウはジャミロクアイの輸入盤を1500円で買う。


「映画のブルーレイを買うつもりじゃなかったの?」


「いや、いいんだ」


映見は少し微笑んで……。


「早く彼女のもとに行きなさいよ」


映見には我道幸代とのことを話した覚えはないが、隠してもいない。


「でもまだ3時だよ」


映見はおでこに指を突いて「私はあなたのこといい人だと思うし、イケメンでカッコいいと思う。あなたが恋人だったら、誇らしいと思う。でも最近のあなたは何かうわの空。女の勘は鋭いのよ。あいにく私達は友達同士。それでよかったのよ。あなたはもう相手がいるんでしょ」


映見にはすべてお見通しってわけか……シャドウは空を仰いだ。23歳の自分は今どこにいるんだろう?我道とのことが、学校で知れて、1ヶ月の謹慎で済む。本当は学校をやめるつもりだった。謹慎が解けて学校に戻った所で生徒達に遭わせる顔がない。我道とのことがどうなるかなんてわからない。若気の至りで別れるかもしれない。未来に絶対はない。


映見は上を向くシャドウの頬を突く。「まったく世の男はなんでこんないい女を放っておくんだろう?」


シャドウは呼応して「本当だね。世の男は見る目がないね」


「じゃあね、モテモテのシャドウ先生……」


映見の後姿は哀愁を帯びた長い髪を垂らし、とても寂しそう。


シャドウは早速スマホを取り出し、我道に電話する。




ベータはパソコンの仕事が一段落して、アイスコーヒーを飲んでいた。携帯が鳴る。野上薫子だ。


「もしもし、どうした?」


「先生、行くあてがないの」


「また俺んちへ泊まりたいのか?」


「出来れば……」


「我道はどうした?」


「彼氏んちへいったみたい……」


野上には少しお金を渡し、またネットカフェに泊まれと言った。


ここんところ我道と酒ばっか飲んで、不健康にも程がある。


もともとそれほど酒を飲まないベータは飲み会で潰れていく友達を見てああはなるまいと思っていた。


我道と一緒だとなんか酒量が増す。


あいつに合わせてると、えらい目に遭うので今後は注意せねば。




高橋・サファイア・ライト・里見は相変わらず梶五十歩に付きまとわれていた。梶の執念は尋常じゃない。


弟のアクアマリンは「もう警察呼んだ方が早くない?」と言うが、梶のことで話を大きくしたくない。子供の我儘だと思えばいい。


今日も夕方5時まで入口に仁王立ちである。6時にサファイアは外に出たが、玄関の横で寝てる。


「寝てる時は穏やかなのにね……」


サファイアは構わず駅前へ向かう。


黒いバンが5台連続で通りかかる。


サファイアは右翼かと思った。


同じ頃初音君也と宝田舞音は立川にて2人で夕陽を見ていた。


「やけに赤い夕陽だね」


「うん」そう言って舞音は初音の肩に寄り添う。


サイレンの音が響いてきた。


2015(H27)6/2(火)・2019(R1)11/12(火)


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