第23回 AUGUST OVER THE MOON
8月7日(木)
天国口高校は校舎自体が暑さで歪んでるよう。
野球部の夏は終わったが、5番サード3年A組中島幸人は1年A組のホープで3番センターを任されてる剛力和利とキャッチボールをしてる。
「俺と堂見がいなくなったら、4番と5番がいなくなるわけだし、お前が4番を打つ可能性もあるぞ」
「はあ」剛力は力のない言葉を返す。
「はあ、じゃねえよ、自覚持てよ」
「はあ」
中島はこのやる気がないわりに潜在能力では野球部トップのとぼけてる剛力に野球部を担ってもらわなければ安心できなかった。
今の2年でこの剛力に勝る人材はいない。
最近勉強に集中したいと言うキャプテンの堂見健太郎は相変わらずマイペースで、野球部の将来には興味が無さそうだ。
2年で2番セカンドを守ってる西岡銀二が次のキャプテン候補だが、どうも小粒だ。いっそ剛力にキャプテンをやらせたいが、このキャラクターじゃ無理
中島は俺も野球部を見限るかなと思い始めてる。
夕方になって中島は剛力と校門を出た。剛力はひょろ~っとした体格だが、イチローを連想させるくらいシャープで、筋力もあった。
「じゃあ剛力また明日な」
「先輩お疲れ様です」
さてと女王様のご機嫌を伺おうかな……と、ありゃ?
前から2年A組神ヶ谷詩織が歩いてくる。個性派の美少女の多いこの高校でも彼女は際立ってる。
ショートカットで所々メッシュを入れてる。目がパッチリして鼻も高い。中島がコロっときてしまってもしょうがないタイプ。
「中島先輩!」神ヶ谷は中島に飛びつく。
「おっと、いきなり大胆だねえ」
神ヶ谷はキスをねだってくる。さすがに中島は「まあ、落ち着けや」
「私とキスしたくないの?」
「俺も一応彼女いるのよ、何か言ったんだって?」
「いいから、いいから」神ヶ谷は中島を引っ張り、人目に付かない所へ来て「ここなら大丈夫でしょ」と誘う。
「蚊が凄いぞ」中島はごまかす。
「先輩も意気地がないなあ……」
その可愛い顔で言われると悪魔の誘惑が理性の壁を突く。
しかし中島は思い留まった。
「意気地なしでもいい、俺はこういう男よ」
「麗羅先輩がそんなに怖い?他でも先輩はモテモテなの知ってるでしょ?」
パパラッチ慶事紀之と初音君也は茂みの陰でシャッターチャンスを待っていた。
「早くキスしろ中島!何をためらう?」慶事は熱くなってる。
初音は上の空だった。当然頭の中は宝田舞音のことだけ……。
神ヶ谷が目をつぶった途端中島は一目散に逃げ出した。神ヶ谷は慌てて追いかける。
「あ~あ、だめか」慶事はガックリ。
「まあ、俺ら遊び半分でやってるんだから、いいんじゃない」
「そんなこと言っちゃって、お前2年の宝田とよろしくやってるんだろ?」
「知ってたのか?」
「あれだけ堂々と会ってれば、当然わかるわな、シャドウと我道とのパターンと同じだ」
「まあ、お前に隠す必要ないもんな」初音は溜め息一つ。
「栄華武蔵とは何か関係があったのか?」
「それは聞けてない」
「まあ、お前ら幼馴染だしな、応援するよ」
初音は苦笑いを浮かべる。
ベータは二日酔いで頭がくらくらしてきた。
ケンタッキーで買ってきたチキンを我道と野上と一緒に食べてる。
「お前あれだけ飲んで何ともないのか?」
「まったく大丈夫」我道は平然とチキンを頬張ってる。
どうもチキン食ってると腹がもたれるので2ピースだけ食って、コールスローを食べ始めた。
「野上もいい加減家に帰れよ」
野上はまた瞳を曇らせる。
「いいよ、いいよ今日は一緒にネットカフェに泊まるから」我道はピースする。
「お前達も色々大変だけど、俺も36歳のおっさんだからな。何かと世間的にやばい」
「センセのことは信用してるから大丈夫だよ」
「駆け込み寺じゃないからな、俺んちは……」
2人はそれには答えない。いい様に利用されてるよなどう考えても……。
時間は夜8時。我道と野上はテレビを見ている。
ベータはやっと酒が抜けてきた感じ。
我道はサイコ野郎だ。ボトル2本開けてあの通り。パソコンの画面をひたすら見てるが、この2人また泊まる気じゃないか?
「センセ」
「酒は飲めんぞ」
「違う違う、私達そろそろ行く」
「ああそうか、気を付けてな」
さて久々に一人になれた。ベータは大きく欠伸する。
満月の夜である。月ノ輪哲郎はスターバックスコーヒーのカフェテリアで、また読書。
音楽雑誌ミュージックマガジンを読んでる。音楽より、社会問題の記事の方が面白い所が玉にキズ。
何か希望はあるのかな?この国で?
月ノ輪はI PODを取り出した。ガンズ・アンド・ローゼズを選択する。
”扉の向こうは地獄”……天国のこちら側は最も地獄に近いってわけか……。笑いごとじゃないね。
2015(H27)5/30(土)・2019(R1)11/12(火)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます