第22回Daylights Starlights

8月5日(火)


3年A組学級委員さすらいの運動音痴野郎”北島守”は部屋の中で沈痛な時間を過ごしていた。


大体1年からずっと学級委員やってるわりにほぼ報われてない。


大学を推薦で入れる位置になったのは、慶事や初音の突っ込みも無視して、勉強に専念したからだ。


これは自分を誇っていい。学年中の秀才どもが本気を出したと言われてる学年テストで7位に入ったのだ。これで2学期の試験でもいい成績が取れれば、どんどん上を狙える。


野上が進学を諦めたのは意外だったが、もう野上を卒業すべきじゃないかと思い始めてる。悲しいことである。自然と涙がこぼれてきた。


自分に酔ってると思われようがどうでもいい、だが悲しいことである。そう思うと涙が止まらなくなってきた。


結局一人相撲になってるわけだし、誰かが胸を貸してくれるわけもない。この3年間はいったいなんだったんだろう?しかしもう頬杖はつかない。北島は涙を拭い、机に向かってまた勉強である。


前を向かんとね。もう勉強することでしか自分を保てない。俺の精神は病んでるのか?そういう自覚がある限り大丈夫だと何かの本で読んだ。


俺も18歳、人生これからだ。俺にしか出来ないことがあるはず。


北島は新しい一歩を踏み出し始めてる。この男もただでは終わらないと言えよう。



野上薫子の父次郎は会社の帰りの電車の中で考え込んでいた。薫子が2週間近く帰ってこない。


何日か前再婚した知代の連れ子省吾が家に友達を数人呼び、薫子の唇を奪ったことを豪語しているのを立ち聞きしてしまった。


薫子は家に帰りたくないのだろう。いざという時のためにキャッシュカードを渡してあるから、どうにか生きてはいるだろうが、次郎は複雑な心境だった。


知代も薫子のことになると事なかれ主義を貫いてるし、こないだなど省吾の悪業をよそに薫子を不良少女呼ばわりした。


さすがの次郎もこの時は叱責し、口喧嘩になり、それ以来口を聞いていないし、次郎も外で夕食を済ませ、帰宅しても自分の書斎に閉じ籠もり、朝も早くに家を出て、喫茶店で朝飯を取る生活が続いてる。文字通り家族崩壊である。


薫子の実母頼子が病気で亡くなったのは、5年前、薫子が12歳の頃だ。


それ以来薫子は空気が抜けてしまったように、次郎に口を聞かなくなってしまった。


頼子が元気だった頃薫子はいつも頼子の側を離れず、笑顔を絶やさなかった。


仕事が忙しくなかなか遊んでやれなかったが、会社に行く時は「パパ、いってらっしゃーい」と送り出してくれた。本来とても素直ないい子だった。でもそれは今でも変わらないはず。


高校に進学した頃再婚話を持ち掛けたら、「いいんじゃない?」とぶっきらぼうに言うだけだった。


知代との再婚は失敗だった。知代はともかく連れ子の省吾の悪質ぶりは目に余った。学校もろくに行かず、部屋に女を連れ込むこともあった。省吾も高2である。薫子にまで手を出すようになったから、いよいよだなと次郎は電車を降りて、気合いを入れ直した。




本城ベータは外から我道幸代へ電話している。


「野上が家出してうちにいる。お前なんとかしてくれないか?」


「私だって半年くらいろくに家に帰ってないのになんとかしろったってねえ……シャドウセンセのとこ泊めるわけにはいかないし……センセだって私とか普通に泊めてるから今のままでいいんじゃないの、でもそうもいかないか」


「野上の性格知ってるだろ?突然暴発する奴だ……今はどうにかなってるからいいけど、なんか家庭環境が悪くて帰れないようだ」


「センセもいい人だけど、少しは厳しくした方がいいよ。女子高生を誰彼構わず家に入れてたら、そのうちお縄だよ。自分のことをもっと心配した方がいいと思う」


「まあ、そうだよな、お前の言うとおりだ」


「野上はお金が無くなってきてるんでしょ?いいよ今からセンセのとこ行ってお金は私が貸す」


「まったく人生ってのは困難だな、お前には感謝するよ」


ベータは電源を切った


家に戻ると野上はまだソファーに横になっていた。無邪気なもんだ。20分後に我道が来る。


「まだ寝てるよ。何時間寝るつもりかわからん」


我道は野上の頬っぺたを叩き「ほら、起きた、起きた」


「うーん、眠い」野上はソファーの下に落ちて丸くなる。


我道はベータの方を向いて首をすくめる。


「お前今日はどこへ泊まるつもりだったんだ?」


「別に決めてないけど」


「じゃあうちに泊まれ。酒ならあるぞ」


「やったー!」我道は早速冷蔵庫の方へ行く。



8月6日(水)


堂面菊四郎は朝7時半に目を覚ました。そうか昨日加奈ちゃんちへ泊まったんだった。加奈ちゃんは横で寝てる。


昨日は加奈ちゃんの働いてるパブ”Foo Fire"に行って夜中の4時まで飲んだ。今日は学校が非番の日だった。


何か無性にコーヒーが飲みたくなった。


加奈ちゃんを起こさないように静かに外へ出て、自販機で缶コーヒーを買う


道路脇に黒いバンが止まってる。中から月ノ輪哲郎が出てくる。菊四郎はあいつA組の生徒じゃないか?名前が出てこない。でも学校にいる時と雰囲気が違う。


月ノ輪の後にサングラスに黒スーツの男が2人出てくる。なんだか怪しい雰囲気。菊四郎は部屋に鍵をかけてないので、すぐ戻る。


2015(H27)5/25(月)・2019(R1)11/12(火)

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