第26回僕はこんなに

「お前らさ、もうちょい教師と生徒の距離感考えろよ、まったく」


ビッグカメラで、野上、浅利、岸森の3人に捕まったのでエクセルシオールコーヒーでお茶することに……。


「教師の安月給だとこういうとこのお茶代だってバカにならないんだぜ?わかるだろ?」


「なんとなくね」


野上がボソっとつぶやく


「でも楽しいんだからいいじゃん」


岸森は相変わらずの天然ぶり。


「先生も楽しいんでしょこんな美女3人に囲まれて?」


まあねと言いたいところだが、浅利のことだからまた調子に乗らせんため何も言わない。


「とりあえずコーヒー代は出すけど、ケーキとかサンドイッチは自分で出せよ?」


3人揃って「はーい」と口を揃える。



2時間くらい付き合わされてやっと解放されたら夕飯の時間だ、まったく……。



7月31日水曜日


8月5日に学校へ行って仕事が続くが、とりあえずあと1週間ほど休みだ


俺のような無趣味の人間は休日何してるかよく聞かれるが、意外にやることは山積みだ


部屋の掃除とか、洗濯に飯の用意、今度岸森でも呼んで手伝わせようかとも思ったが、それは冗談だよな


今日は朝6時に起きて洗濯と部屋の掃除であっという間に10時になった


レンタルビデオ屋が開く頃だ、映画と新聞読むのが唯一の趣味と言えるが、趣味と呼べるんだろうか?


レンタルビデオ屋へ直行。今日は意地でもキム・ギドク監督の「受取人不明」借りようと思ったが、案の定貸出し中、ちきしょう!しょうがないのでウォンビン主演の「アジョシ」と「さらば宇宙戦艦ヤマト」と宮崎駿の「ハウルの動く城」の3本を借りる。「ハウル」はジブリ映画で唯一見てない一本。


夕方6時頃「アジョシ」が観終わる、最高だった。「ハウル」を観ようとしたら、携帯が鳴る、案の定岸森からだ。


こないだ職員室で微妙な状況になったので、ここは節度を持たんとな。


「先生に会いたい」


「お前は俺の恋人じゃないだろ?」


「でもあの時キスしようと思えば出来たじゃん」


「ありえんて」


「そうかな?強引にしちゃえばよかったかな?」


「なんて言ったらいいのかな、確かに普通の男がお前にそう言われたら悪い気はしないよ」


「先生は普通じゃないの?」


「普通だけど、先生ってのは因果な仕事なのよ、わかってくれる?」


「うーん、私ひょっとしたら相当バカかもしれないけど、先生のことは異性として好き」


「自分のことバカっていってるうちは大丈夫だよ、でもこれ以上俺に近づいちゃだめだぞ」


「なんで?」


「オオカミになるからだ!」


「また私赤ずきんちゃん?」


岸森はそう言ってまた笑い出す、バカなのか利口なのか、掴みどころのない子だ


「ねえ、今から先生のうちに行っていい?」


「ダメだ!お前は貞操観念がないのか?」


「テイソウカンネン?何のこと?」


「もういい、早く寝ろ!」


「まだ6時じゃない、暇なんだもん」


「だからさあ……先生には先生のプライベートがあるの!それ以上踏み込まない方がいい」




「うーん、わかった、先生を困らせたらダメだもんね」


聞き分けがいいところがこの子のいいところだ、末恐ろしいほどモテるだろうな……。


「じゃあね」


「チャオ!」そう言って岸森は電話を切った。



我道幸代はベータのアパートの前で2階を見上げていた。


少し口を膨らまし、歩き出した。


スマホには本城ベータの表示、しかし通話ボタンは押さず、少し含み笑いをした。


2012(H25)9/23(月)・2018(H30)5/6(日)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る