第5話 色々な事があったとさ
それからは怒濤の日々だった。
王都を抜け出し、路銀を稼ぐために冒険者となり。そんな日々の中でボッチの大魔術師、リューシェスが仲間に加わった。
正直、勘太の冒険者としての技量は微妙だったが、勘太は常にムードメーカーとして仲間達の士気を高めた。
因みにリューシェス……リューがパーティーに加わったのも、勘太のもふもふ目当てだったりする。
そうして、勇者一行として旅をする中、ある時ついに魔王軍の大物が勘太達の前に現れた。
筋骨隆々とした異丈夫で魔法耐性と卓越した剣技がハンパない、魔王軍の大将軍、ラセツ。
仲間達が次々と倒れる中、とうとう我慢しきれなくなった勘太が飛び出した。
「ああっ、カンタ様っ!!だめです!!死んじゃいます!!!」
「ファル、いくら俺のステータスが軒並みお前より低くても、それでも男には引けない瞬間ってのがあるんだっ」
そう叫んで飛び出した勘太を、ラセツは微妙な表情で迎えた。
「……せっかく格好良く飛び出して貰ってなんだが、正直、お前程度は秒殺だと思うぞ?というか、勇者はどこにいるんだ?勇者は??」
「勇者は俺だ!俺が、一応勇者なんだ!!」
「お前が?嘘だろう??」
弱い者いじめは嫌いだ、と困ったように勘太を見るラセツ。
敵とは言え、中々の義侠心をもった男のようだ。
(いつも守られてばっかりだったけど、今日こそは!!俺が、なんとしてもみんなを守ってみせる!!!)
そんな決意を胸に、勘太は叫ぶ。
最近はずいぶん慣れてきた、あのこっぱずかしい決めゼリフを。
「チェンジフォーム・ツー!レディー……ゴー!!」
そうしてポーズを決めれば、勘太の体がまばゆく光り、その後に現れたのは何とも愛らしい子犬……いやいや、子狼だった。
「……は?い、犬??い、いや、狼、か?」
困惑した声を上げるラセツ。
そんなラセツに、勘太は猛然と吠えかかった。
「わふっ、わふっ、わふっ、わふっ!!」
まだ子狼だからか、その吠え方にはちっとも迫力がない。が、勘太は至って真面目だ。
ラセツの足止めをするように、その周囲を回りながらとにかく吠える。吠えて吠えて吠えまくる。
そんな一生懸命な姿に、遠くでファルが涙した。
「カ、カンタ様。な、なんて尊い……」
「カ、カンタ……い、今、助けに行くからな」
ラフィはまだ満足に起きあがれぬ体にむち打って剣を杖に何とか立ち上がろうとし、
「カンタ……抱かせて……」
リューはカンタのあまりの愛らしさに鼻から血を流す。
「おんっ、おんっ、おんっ(ってか、てめーら!さっさと逃げろよ!?)」
叫ぶが、ファル達にその心の叫びが通じることなく。
それでもカンタは仲間の撤退を助けるべく、必死に吠えた。
「わふっ、わふっ……ごほっ、げほっ……ぎゃふっ、ぎゃんっ」
せき込みながらもなお吠える。
その姿に、胸をうたれたラセツは、とうとうその場に膝をついた。
「……くっ。俺の、負けだ」
「ぎゃうっ!?(マジかよ!?)」
こうして、驚くほどあっけなく、勝負の決着はついてしまったのだった。
ラセツは言った。
魔王様を止められるのは、カンタ、お前だけかもしれない、と。
曰く、魔王は別に人間が憎くて戦いを仕掛けているわけではないらしい。
長い命と暇を持て余し、退屈しのぎに勇者でも来ればいいな~っと、そんな気分からこの戦争は始まった。
だから、魔王の退屈をどうにかできれば戦争も終わるはずなのだ。
本来、この国の魔王は反戦派で、その配下にも穏やかな魔族が多い。
戦争を早く終わらせたい、そんな周囲の意見に押され、ラセツは勘太達の前に現れた。
てっとり早く勇者を魔王の元へ連れて行って、早期の終戦を目指す為に。
(魔族っていっても、人と同じで、色んな奴がいるんだなぁ)
勘太は素直に感心し、ラセツの申し出を受けることにした。
魔王に会い、その退屈を吹き飛ばして戦いを終わらせる。
そんな決意を胸に、勘太は一人、ラセツと共に魔王城を目指すのだった。
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