第2話 勇者召喚、そして…
勇者召還の儀は無事に執り行われた。
後は魔法陣の輝きがおさまり、そこに勇者の姿が現れるのを待つばかり。
そんな状態の城の地下室で。
その場にいるのは護衛の騎士と、儀式を執り行った宮廷魔術師の老爺、それに輝かんばかりに美しい少女が一人。
金色の髪に翡翠の瞳のその少女の名前はファルミナ。
この国の王女であり、聖女としても希有な力を持っている。
彼女はこの勇者召還が成功したら、魔王を討つ為勇者と共に旅立つ予定だった。
魔法陣を覆う輝きが徐々に薄れてくる。
その輝きの向こうに少々小柄な人影が見え始め、一同はほっと息をつく。
どうやら何者も召還されなかったという最悪の事態だけは避けられたようだ、と。
だが、光が薄れるにつれ、その向こうに見える人影の常とは違う様子も見えてきた。
人影の頭に、何かついている。とんがった、二つの何か。
更に、その人物の腰のあたりで、ふさふさした何かが揺れていた。まるで、そう、尻尾のような……。
「ゆ、勇者様じゃからのう。ちょっと常人と違うことも、あるかもしれん。のう、姫様!!」
宮廷魔術師の老爺からすがるように同意を求められ、ファルミナはおっとりと首を傾げる。
「そうですねぇ。勇者様ですから、私達と違っていても、おかしくはないかもしれませんねぇ」
言いながら、彼女は光の消えかけた魔法陣へと歩を進める。
姫様、危険です、と騎士達が制止の声を上げるが、
「ここにいらっしゃるのは勇者様。これからの戦いの中で私達を守って下さる方です。そんなお方を前に、どんな危険があるというの?」
ファルフェミナはおっとり笑うばかり。
そして、持ち前の好奇心のまま彼女は魔法陣の前に立ち、その瞬間淡い光はぱっと消えた。
光の消えた魔法陣に残されていたのは一人の少年。
黒髪に、ちょっと眠そうな黒い瞳。年の頃は14、5歳ほどだろうか。
ファルミナは16歳だから、ほんの少し年下と言うことになる。
光がまぶしかったのか、可愛らしく目をぱちくりさせた後、目の前にいるファルミナの顔を見上げて、かちっと固まった。
まん丸に見開かれた目が驚いていますと、雄弁に彼の心情を語っている。
本来なら優しく話しかけてその緊張を解いてあげるべきなのだろうが、いつもは容易なその行為が今はどうにも難しい。
なぜなら、ファルミナもまた心底驚いていたからだ。
光の中から現れた少年。
勇者様とおぼしき彼の頭にはもふっとした愛らしい、大きな獣耳がついていた。
神様と話していたと思ったらまぶしい光に包まれて、それが晴れたと思ったら、目の前には驚く程の美少女がいた。
女の子耐性の低い勘太は見事に固まり、目の前の美少女をただ見つめる。
が、相手もなぜかひどく驚いているようで、一向に話しかけてこようとしない。
で、仕方なく美少女観察をしていたらとんでもないことに気づいてしまった。
この美少女、美人なだけじゃ飽きたらず、おっぱいもものすごい。
たゆんたゆんである。
ちょっとでも身動きしたら大変なことになりそうだが、ぴくりとも動かないからぴくりとも揺れない。
いくら女の子と縁遠い生活をしていたとはいえ、勘太も健全な男の子。
どれだけもふもふを愛していようとも、目の前に魅力的なおっぱいがあれば視線は自然と釘付けになってしまうものである。
(くそぅ、揺れろよぉ)
と邪念のこもった眼差しで魅惑の膨らみを睨んでいたら、後ろからふぁさっ、ふぁさっと何かが動く音。
なんだろう、と思いはしたものの、今の勘太におっぱいから目を離すという選択肢は無い。
だが、そのおかげで、
「あっ」
と声を上げた美少女の胸元がたゆんと揺れるのを見逃さずにすんだのは幸運だった。
(ゆっ、ゆれたぁぁ!すっ、すげぇ)
何とも言えない感動が心を満たす。
すると、なぜか後ろから聞こえてくる音も、ふぁっさ、ふぁっさ、と勢いを増し、なんだぁ?と勘太は首を傾げた。
そんな勘太の背後を見て、美少女が胸の前で指を組み合わせて、わあぁっと顔を輝かせる。
そのきらきらした眼差しを見て、
(俺の後ろになんかいいもんあるのかなぁ)
と振り向こうとしたところで、大きな咳払いと共に別の声が割り込んできた。
「……姫様。しっかりしなされ。勇者様が困惑しておられますぞ?」
そんな発言をしたのは、美少女の少し後ろに立っているちっさなじぃさんで。
もっふぁ~と生えた白い髭が何とも言えない。
今まで老人に興味なんて全くなかったけど、今日、初めて思った。
じぃさんって、結構いいもんだな、と。
「し、失礼しました。勇者様。私は、この国の王女ファルミナと申します。どうかファル、とお呼び下さい」
目の前の美少女がそう言ってにっこり微笑む。
(ふぅん、王女様か~)
感心しながらその様子を見つめ、それからきょろきょろと周囲を見回す。
さっきからじぃさんと王女様が連呼してる、勇者様ってのはどこにいるんだろう、と。
だが、そんな勘太の行為をあざ笑うかのように、
「さあ、お父様がお待ちです。私がご案内しますので、謁見の間へ参りましょう、勇者様」
ファルミナはそう言って微笑み、きょろきょろしている勘太の手を取った。
(だからぁ。勇者ってのはどこのどいつ……って、おれぇぇぇ!?)
内心驚愕する勘太の事などお構いなしに、ぐいぐいと手を引いて歩き出すファルミナ。
彼女に手を引かれて歩きながら、
(王女様、以外と力がつえ~のな……)
勘太はそんな事を思い、まるで借りてきた猫のように大人しく彼女に従うのだった。
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