第16話 出立する


 各所の準備が整い、いよいよネームド討伐に出立することになった。


 結局イヴリースとは仲良くなる所か顔合わせ以降は一度も会うことも出来なかった。


■■■


「まったく、勇者である俺が声をかけてるのに全て断りやがって……」


 不満を隣で聞いていた神官が謝ってくる。


「彼女はトロイメア商会のご令嬢がゆえに強制することも出来ず、お力になれず申し訳ありません」


「いやいい。俺も大人げなかったな、すまん。それより準備はどんな感じだ?」


「既に準備万端で、明日の出立を待つのみでございます」


「そうか……」


「今日は国王との晩餐会がありますので、その時に皆一堂に会して彼女にも会えるでしょう」


「ちょ、それを早く言えよ!」


「申し訳ありません」


「まぁそれなら退屈な晩餐会も楽しみになったな」


 出来ることなら俺のものにしたいしな。


■■■


 晩餐会が始まり国王から激励されるも心は別のところにある。ヴァニティーも絡んでくるも面倒なので神官に擦り付けた。


 そしてユウトは自分の席を離れ、目的の場所に移る。


「やあ、久しぶりだねイヴちゃん元気?」


「……お久しぶりです。そうですね勇者様もお元気そうで何よりです」


「つれないなー、そろそろ俺のことは隼人と呼び捨てでいいんだよ?」


「……それは出来ません。勇者様と私では立場が違いますから」


「えー、でもイヴちゃんも商会のお嬢様何でしょ?」


「なっ、どこでそれを!? いえ、まぁもう話してもいいですか……」


「へぇーお嬢様ということを隠してたんだ、何で?」


「……私は私ですから商会とは関係ありません」


「そっか、イヴちゃんは強いね。魔物と戦うのが怖くないの?」


「……そうですね。私は負けることが出来ないですから」


「へぇー、それは商会と教会の取引が関係してんの?」


「……それもなくはないです、だけど共に歩むと決めた人のそばにいる為には立ち止まることが出来ないですから」


「そっか……その人のことが好きなんだ。いやーそいつが羨ましいな」


「そんなことはありません。……話しすぎましたね、今のは忘れてください」


「ならまだ俺にもチャンスがあるかな? 今回の戦いで格好良いところを見せて、俺のことを好きにさせてみせるから見ててくれよ!」


「……まぁ、はい」


 勇者というステータスを持ってる男が格好いい所を見せれば、きっとイヴリースも落ちるに違いないしな。


■■■


 晩餐会は無事に終え、翌日にネームド討伐に向けての出立を迎える。


 普段は聖騎士団が出入りする通用門から魔物の討伐に出向くのだが、今回は王城の正門から外に出ることになった。


 そこからの道のりはさながらパレードのような趣で、はじめて勇者を見る人たちから羨望の眼差しを向けられる。


 ユウトはこれほど多くの人から期待されることの気持ちよさに酔いしれる。


「はっは! 俺に全て任せとけ!」



 こうしてユウトはイヴリースに気に入られる為にも張り切って聖都市を出立した。

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