第7話 討伐訓練


 ユニークスキルを使えるようになれば魔法を使えるかもしれないということなので、訓練にも真面目に取り組もうとする。


「まず何をすればいいんだ?」


「今日は魔物討伐訓練を致しましょう。今日の段取りは既に整っております。街の外へ行きますのでご準備下さい」


 神官がユウトの問いに答えた。


「そうか遂に実戦訓練か! 座学とか室内での訓練とかは飽きてきたし、いいじゃないか」


 座学でどのような魔物がいるのかを学んだが初めての魔物との戦いで、見るのも初めてだ。

 不安と期待が入り交じりながら、ユウトは準備を進めた。


■■■


 街を出てすぐの場所にある草原にやって来た。

 魔物が生息するエリア、つまり魔物の領域は人が管理している場所以外だ。

 街は魔物が入ってこれないように魔法で結界を張っているが、それにも限度があるので街道であろうが魔物に遭遇する可能性はある。

 比較的ランクの高い魔物は中々お目にする機会は少ないが、ゴブリンやオークなどの低級の魔物はどこでも遭遇することが出来る。 


「勇者様、まずは他のものが見本を見せますのでその様子を見ていてください」


「分かった」


 初めての魔物との戦いということもあって素直に従う。

 ゲームで簡単に倒せる雑魚だからそこまで慎重になら無くてもとは思うが、他のパーティーメンバーの目をみると冗談で茶化すことは出来なかった。


■■■


「グギャアア!」


 始めに遭遇した魔物はゴブリンだった。

 小さく醜い見た目で雑魚とは言っても、動物とは違うそれを見ると手に汗をかく。

 こちらを敵と認識して必死に襲ってくるのは、命を掛けた戦いだからだろう。

 喧嘩に明け暮れてきたユウトだが、命の取り合いは初めての経験で、本能的にあれはヤバいと感じている。


「ユウト、まずは俺が倒して見せるから見ていてくれ」


 アヴラムが先陣を切って斬り込む。


「プギャァァア!」


 ゴブリンが一撃で切り伏せられてしまった。


「はっ?」


「どうだユウト、出来そうか?」


「いやいやお前、本当に凄い奴だったんだな。何をやったか良くわからなかったぞ!」


「そうか? まぁユウトも直ぐに出来るようになるさ」


「そうなのか? まぁ俺は勇者だから当然か」


 初めての魔物討伐訓練だが、こうもあっさり倒される魔物を見て自分も簡単に出来るようになるのではという自信を持つことができた。

 そして神官に促されて、いよいよユウトも戦ってみることになる。


「勇者様、それでは戦ってみましょう。まずは他の者がダメージを与えますので、最後の止めを刺していただけますか?」


「そんなのでいいのか?」


「勿論でございます。魔王に止めを指すのが勇者の役目なように、他の者がお膳立てすることは当然でございます」


 パーティーメンバー達は素直に指示に従うのだが、疑問に思ったアヴラムが神官に尋ねる。


「でもこれで本当に強くなれるのですか?」


「勿論だとも! それにこんなところで勇者が危険を犯してまで戦う必要は無い。今は経験値を貯める時期だ! 勇者が戦いに慣れることこそが重要なのです」


「そうですか……」


 こうして初めての魔物の討伐訓練はアヴラム達がダメージを与えて最後の止めをユウトが刺すという形で行われたのだが、アヴラムの攻撃が的確で、他のメンバーが何かをする必要は殆ど無かった。

 魔物の脅威が殆ど失われた状況で、ただ剣を振るうだけで止めを刺すことが出来る状況だったが、実力が伴わないユウトはその事に気付かない。


(俺って実は天才かも!)


 数十体にも及ぶ討伐を終えた頃にアヴラムに話しかけられる。


「どうだユウト、慣れてきたか?」


「ああ! この調子なら魔王討伐も直ぐかもな」


「そうか……それは良かった」


 話していると離れたところで見ていた神官が近寄ってきて話しかけてくる。


「お見事でございます勇者様! これが勇者様が倒した魔物から取得した魔石でございます」


 そう言って袋の中に仕舞われた魔石を見せられる。


「魔石ってなんだ?」


「おいおいユウト、座学で教えてもらっただろう? 魔物にはコアとなる魔石があるんだ。そしてその魔石は魔法を使うエネルギーでもあるから、価値が高いんだよ」


「へぇー、そんな物があるんだな。座学とか全然聞いてなかったから、初耳だ」


「まぁ俺も座学は嫌いだから人の事は言えないけど、必要なことは覚えておいた方がいいぞ」


「ああそうだな。 でそれを俺に見せてどうしろと言うんだ?」


 別に戦果なら、倒した魔物を見れば分かるので、わざわざ魔石を見せられた所で、何も感想は出てこない。

 そこは神官が説明してくれる。


「勇者様は特別なスキルをお持ちです。そして魔石とは魔法を使うエネルギーの塊でございます」


「そうか、スキルでこれを吸収すればいいんだな?」


「その通りでございます。魔石に手を触れてみて下さいませ」


「こうか?」


 ユウトは手を魔石に当てる。すると魔石がドライアイスのように蒸発し、手に吸収されていく。


「おお!」


 初めて自分発進で魔法っぽい現象を起こしたのでテンションが上がる。

 そして体に今まで感じたことのない力を感じとる。

 魔力は初めて体に流れ込む異物なので、最初は体が熱くなったが徐々に体が慣れて、さも初めから自分の一部かのように違和感を感じなくなる。


「これが魔法の力……」


「魔力を感じ取れるようになるとはさすがでございます。しかし溜め込んだ魔力は自然に放出されてしまいますので、一度魔法を使ってみましょう」


「まじか! 魔法を使えるのか!?」


「はい。それでは私が手本を見せますので真似をして見てください」

「我、火の力を求めるもの、火の精サラマンダーの力をもって敵を打ち払う力を与えたまえ[ファイヤーボール]」


 神官がそう唱えて手を空中に掲げると、炎の弾が放たれる。


「おお、すげぇ! まじで魔法じゃねぇか!」


「はい。これが魔法でございます」


 さっそくユウトも魔法を使ってみることにするのだが、詠唱は照れ臭いので省略する。


「[ファイヤーボール]!」


 すると先ほど神官が放ったそれより遥かに大きな火の弾が放たれる。

 だが初めての魔法行使で制御など出来るはずもなく、魔力が枯渇してしまい気を失ってしまった。

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