第4話 大切な存在
そうこうしているうちに、気付けば早一月…倉庫に眠る書物を漁っては片っ端から目を通す日々が続いた。
アルメイアと離れ離れになってはいるが、別に寂しい訳でもない。
何故なら。 彼女と俺は”この指輪”のお陰でずっと繋がっているからだ。
「エンゲージリング…」
婚約指輪…と記憶しているが、これはどうもそういうのではないようだ。
本当か嘘か。 真実は彼女のみぞ知る―――なんたって、俺が何度聞いても「ま、まぁ。 ウィッチクラフトに代々伝わる”魔法装備マジックアイテム”だ! それがあれば私といつでも話せるぞ!」の一点張りで、それ以上の事は聞き出せなかった。
何を隠してるのか知らないが…もしかして、呪いのアイテムとかじゃないよな?
一度身に着けたら最後。 一生外せないと言っていたけど、も、も、もしかしてそうなのか!?
試しに指輪を引っ張ってみる。 が、しかし…びくともしない。
「で、ですよね~…」
あまり深く考えるのはよそう。
こういう時こそ、見て見ぬフリが一番だ。
と思った俺は大人しく読書に戻る事とした。
――――――――――――
夕食を終えシャワーを浴びた俺はベッドの上で胡坐をかきながら、再び読書に明け暮れる。
成程―――
”異世界人”
それは”転主の女神”に選ばれし存在。
加護を授かった者は例外なく凄まじい力・能力を得る。
しかし―――全ての異世界人が与えられた使命を遂行するとは考えられない。
そこで、女神はある取り決めを行ったと聞く。
”信仰制”―――異世界人は皆、ブランクカードと呼ばれる白紙の紙を所有している。
なんでも、そのカード?なる物には所有者のこれまでの行動が全て記録され、カードを街の教会へ持って行くと封じられた力が次々と解放されるらしい。
実際見た事は無いが、何度も勇者達が教会へ足を運ぶ事は既に調査済みだ。
よって。 異世界人は強力な力を有しているが、それはまだまだ未熟な力。
ある勇者は「チートじゃないのか…」等と愚痴を零していたが、信仰制なる制約のお陰で勇者達は至極真っ当に使命を熟している。
まぁ…例外もあるのだが。
――――――――――――
とここで文字が途絶え、後は白紙の頁ページばかりだった。
「成程…アルメイアの反応の意味はこれか。 本当にこの世界じゃ、異世界人ってそう珍しいものでもないんだな」
あくまでこの書物はアルメイアの手書き。
おまけにアルメイア1人の見解にすぎないが、経験豊富な彼女がそう調べ上げたのあればそうなのだろう。
なんたって”黒き魔女”とも呼ばれ、皆から恐れられた存在だ。
色んな経験を積んでるんだろう。
「とはいえ…ふぁぁ~…流石に眠い」
気を抜くとすぐにでも寝落ちしそうな勢いだ。
しかし―――こんな状況であっても寝る訳にはいかない。
ここで寝たら後でどんな説教を食らうか…想像しただけでも頭が痛くなりそうだ。
この前”コレ”をすっぽかした時なんか「おい。 スレイの馬鹿。 お前が寝たせいで、私が退屈だっただろう!! 寝るな!起きろ、ヒモ男! 私のヒモ男!!」なんて罵声を浴びせられ続けた。
ヒモ男なのは認めよう。
こんな地獄みたいな場所に住んでたら、一般人の俺はヒモ男以外の選択がないのだから。
しかし! これだけは言わせて欲しい。
(お? 今日は起きているようだなスレイ?)
寝落ち寸前の所でハッと我に返った俺は、頭に響く声の主を待ちわびていた。
と言うよりも。
(アルメイア? なんでいつもこんな真夜中に”魔送”を? 別に誰にも聞こえてないんだから昼でも―――)
(ん? そ、それは駄目だ!! ひ、昼は駄目だ!)
何故か頑なに拒否された。
(で? 今日は何か楽しい事でも?)
(いや。 何時もと変わらん。 魔物を倒して――それから食事を取り――再び魔物を倒す! そして野宿! どうだ? 何時も通りだろう!? はっはははは!)
(そうかそうか、いつも通り―――って!! それ昨日も聞いたし! 昨日と一言一句違わず同じ台詞だし!?)
(ふふっ。 しかしな、スレイ? 本当に何も無いぞ? 8人でPTを組んでいるせいか知らぬが、私が詠唱している間に目の前の魔物がばったばったと葬られていくからな! ふははは!)
いや、笑ってる場合かよ。
こんな風に何時も真夜中に俺とアルメイアは魔送で他愛ないやりとりをしている。
”魔送”とは、このエンゲージリングに備え付けられた”スキル”だ。
これのお陰で、相手の事を念じるだけでこうやって遠く離れた場所に居ても、言葉を交わすことが出来る。
まぁ、いつもと変わらず元気な声がきけて俺は満足だ。
―――――――ただ、一つ問題があるとするなら。
(zzzzzzzzzzzzzzzzzzz)
(おーい…)
(zzzzzzzzzzzzzzzzzzz)
(またか…)
この様に、魔送中にも関わらず寝息が聞こえてくる事だろう。
普通であれば魔送は相手の事を念じていなければ発動しない―――それがどういう事なのか、彼女は無意識の中であっても魔送が発動している。
それはつまり、それだけ俺の事を気にかけてくれていると言う裏返しの意味とも捉えられる。
だから俺はなんだかんだ言って、この時間が好きだ。
生憎アルメイアは目の前にいないが自然と笑みが零れてしまう。
嬉しい―――そんな気持ちで満たされた俺は、先程の眠気が嘘の様に吹き飛んだ。
全く…アルメイアには本当…頭が上がらないなぁ。
彼女は俺の失った心を再び呼び起こしてくれた存在であり、何よりも大切な存在。
恋人?母親? 違うな―――――――家族だ。
俺は”大切な家族”とゆっくりまったり、この世界で暮らしていこうと思う。
そうだなぁ、平和に?
ただ、この家に籠りっぱなしというのも頂けない。
微量ではあるが俺には魔力が備わっている。
なんでも赤子の頃は無かったらしいんだが、急に突然と俺の体内に魔力が宿った様である。
とは言え、お子様レベルの本当に僅かな魔力だ。
だからといって、何もしない俺ではない。
さてと―――はじめるか! 魔力増量の修行を!!
徐に枕元に置いてある書物を取り出した俺は、折り曲げた頁を開いてそれを始めるのであった。
――魔力増量の指南書――
その① 指先に力を込め一点に集中。
その② まずは小さな炎をイメージする。 ※激しい炎ではなく、ムラのない穏やかな炎。
その③ 徐々に込めた力を増幅 ※ここで頭痛が発生した場合は直ぐに②へ戻る。
とご丁寧にも注意事項までが記載された書物に目を通す。
流石はアルメイアと言うべきか…完璧なアフターケアだ。
さて、がんばるとするか。
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