第5話

「どうして――――――?」

 翌日。

 小川文雄とは醜く、腐乱し膨れ上がった姿で再開した。

 ありえなかった。


 川辺に打ち上がった彼の遺体を取り囲むようにブルーシートが張られていく。

 集落住民達は各々が不安そうな表情を浮かべながら、あの碧い壁の向こうの景色を想像しているのだろう。

 肉の饐えた匂いに雑るように、幽かに遠い雨雲が香る。

 その独特の匂いにか、はたまた脳内に広がる凄惨な彼の姿をのせいか、帆足は顔を顰めながら囲まれたブルーシートの内から立ち去っていった。


 その遺体はまるで、帆足がここに来るずっと前から水底に沈んでいたかのような状態だった。

 とても、昨日軒先で共に茶を啜っていたとは思えないほどに。

 遺体は着の身着のまま、帆足と共に過ごしていた時と全く同じ服装をしていた。

 あの後に彼が自ら入水自殺を図っていたとしても腐乱死体として発見されることはなかっただろう。

 加えて。

 彼の遺体、右足首には黒い手形が巻き付いていた。

 帆足は最初、それは川底の藻草が巻き付いていたのかと思っていたのだが、擦っても落ちる気配はなく、呪印のように焼きついていた。


 その呪印の焼きついた右足が帆足の脳裏から離れない。

「――――――もしや、引きずり込まれた?」

 何者か、人ならざる何かに連れていかれたのだとしたら。

 普段ならそんなことは考えなかったし、言われたところで一笑に付していただろう。

 けれど、そんな帆足が朧気に抱いた疑念を肯定するかのような言葉を、彼は軒先の二つの湯呑と共に残していた。

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