22.心霊写真
さゆりは全く興味が無いのだが、何故か彼女が写真を撮ると高確率で霊が写りこんでしまう。
「心霊写真なんて、役に立たないからいらないのよね。」
彼女はそう言って嫌そうにするけど、私は素直に凄いと思う。
しかし思い出の写真に、邪魔をするものが大量にいるのは良くない。
だからいつの間にか、どこかに遊びに行く時は必ず私が写真を撮る係になった。
「お願いします。僕は知っているんですよ。あなたには素晴らしい才能があるって。」
その日、私とさゆりの元に来た青年は、明らかに面倒くさい人種だった。
先ほどから彼が主張しているのは、ただ一つ。
心霊写真を撮ってくれ。というそれだけ。
私とさゆりは刺激しないように断っているのだが、全く聞く耳を持たない。
「ごめんなさい。私に心霊写真を撮る能力なんてないわよ。あなたの勘違いだと思うけど。」
「いいや。分かっているんですよ。」
さゆりも相手にするのが、段々面倒になっているみたいだ。
表情がどんどんさえなくなっている。
私も助けようとはしても、タイミングがつかめず見守るしかない。
「写真を撮るのはあまり好きじゃないし。申し訳ないんだけどあなたの事をよく知らないから、撮る義理も無いでしょ。」
さゆりはもはや、私以外の対人に使う愛想も使えなくなっている。
本当に珍しい事なので、私ははらはらとした気持ちで見ていた。
しかし全く彼女と付き合いの無い、青年はそれに気づいていない。
「そうかもしれませんね。でも僕は必要としていて、あなたはそれを用意出来る。お願いしますよ。」
いつ、さゆりが爆発するのか。
私はそろそろかと予想していたが、意外にも我慢強かった。
「どうして、心霊写真が欲しいの?」
無表情で淡々と、その青年に尋ねた。
彼は受け入れてくれるとでも思ったのか、顔を輝かせた。
「はい。それは困っている事があって。詳しくは言えないんですけど。」
明らかに人に頼む態度ではない。
私は第三者の立場ではあるが、むかついた。
まだ会話を続けている最中ではあるけど、むりやり割り込んで終わりにしてしまおうか。
そう思ったのだが、私が入る前にさゆりが口を開いた。
「分かったわ。1枚、写真を撮れば満足してくれるのね。」
完全にあきらめた様子。
私は心配になって顔を見るが、まるで大丈夫かというように疲れた笑みを返された。
「本当ですか!ありがとうございます!じゃあ、1週間以内にお願いします!」
青年はそのままスキップをするかというぐらいの勢いで、去っていった。
まるで嵐のように去っていった彼の名前を、私は知らない。
たぶんさゆりもそうだろう。
彼は自分の言いたい事だけ言って、自己紹介を結局しなかったからだ。
「本当に良いの?」
「諦めなさそうだから。しょうがなくよ。このまま断り続けて、理名に何かされても困るもの。」
2人きりになった後、私は心配になってさゆりに聞く。
そうすると、何ともまあ照れ臭くなるような返事をされて、私はそんな場合じゃないけど恥ずかしくなってしまった。
「馬鹿なこと言わないで。私は心配しているの、写真撮るの嫌でしょ?」
「そうだけど。少しお灸をすえてあげようかとも思ってるの。ふふふ。」
しかし、私はさゆりが思っていた以上に怒っているのを、その笑顔から察してそっとしておく事を決めた。
確かにああいうタイプは、お灸をすえた方がいい。
あの能天気で人の話を聞かない青年が、近い将来どうなるのか今から楽しみで仕方なかった。
次に青年を呼び出したのは、それから3日後だった。
「ちゃんと持ってきてくれましたか?」
申し訳なさそうな顔をしていれば、少しは可愛げがあったのに。
むしろ、3日も何をしていたんだとでも言いたそうな顔をしている。
「ええ。あなたの為に、特別に用意したわ。」
しかし今の私達は、怒りなどわいてこない。
それ以上に、これから起こる事のワクワクが止まらない。
さゆりは青年の方に進み、あらかじめ用意しておいた封筒を彼に差し出した。
それを嬉しそうに受け取ると、彼はお礼も言わずに封を開ける。
さゆりが用意した写真の数は、束になるぐらいだから多い。
それを満足そうに、青年は見始めた。
「いっぱいですね。とりあえず嘘をついていないか、確認させてもらいますよ。」
ゆっくりと見ている内容を、私は既に知っている。
ここに来る前に、あらかじめさゆりから見せてもらっているからだ。
最初は、どこだか分からない森の写真。
だからなのか、青年の眉間にしわが寄っている。
しかし見ていく内に、それは変わっていく。
森の木々の間から、何かが出てくる。
最初は小さな点、そこからどんどん近づいてきて、正体が黒い着物を着た女性だと分かる。
しかし俯いていて、その表情は読めない。
そして更に写真を見ていくと、ある事に気がつくのだ。
写真に写っているのが、今自分がいる場所なんだと。
私の思っている通りのようで、青年の顔が恐怖でひきつっている。
その手元にある写真は、もう最後のようだ。
どアップになった、女の顔が写っているもの。
このタイミングで脅かしても良かったのだが、私達はそれよりも更に高度な嫌がらせをした。
すでに彼の近くに私達はいない。
写真に気を取られてしまって、周りを見えていない彼はいつ気が付くのだろうか。
ここは外灯も無い、真っ暗な闇に包まれる場所になるのだと。
気づいた時の、絶望と恐怖が入り混じった叫び声。
その様子を用意しておいたカメラで見ながら、意地悪く私達は笑った。
それから青年が、さゆりにちょっかいを出す事は無かった。
顔も見せず、その後どうなったのか知らない。
まあ、元々名前も知らない人だ。
どうなろうと、私達の知った事ではない。
まあ、あの写真が本物だから、呪われている可能性が1番高い。
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