18.下に





 私の家が、何だか最近おかしい。

 さゆりに関わるようになって、変なものに目をつけられるようになったのか。


 それはとても面倒くさい事だ。

 私はさっそく彼女に、連絡を取る。



 携帯電話にかければ、さゆりはすぐに出た。

 家の電話にかけると、彼女の元に辿り着くまでに時間がかかるが、私が携帯にかけるとすぐに出てくれるから楽である。

 それは幼なじみの数少ない特権かもしれない。


「もしもし。こんな時間にどうしたの?」


 電話に出たさゆりは、眠るところだったのかあくびまじりの声をしている。

 彼女は何も無かったらいつも寝るのは早いので、少し申し訳ないがこちらも緊急事態だ。


「もしもし。ごめんね、ちょっと家がおかしい気がして。」


「あら。それは大変ね。どうしてそう思ったのか、教えてちょうだい。」


 にわかにテンションの上がったさゆりに、苦笑いをしつつ私はざっくりと嫌な予感がする事を告げた。

 そうすればさらに楽しそうにする彼女は、今から私の家に来ると言う。


 私は時計を見た。

 そこまで遅すぎる時間じゃないから、親も反対はしないだろう。

 むしろさゆりが来るなら喜びそうだ。


 そこまで考えると、私は了承した。





「理名の家に来るのも久しぶりね。」


 電話のあと、そう時間が経たないうちに来たさゆりは、予想通り私の両親に大歓迎を受けた。

 それを受け入れながらも、そわそわしていた彼女をさっさと部屋に連れ込む。


 中に入ると勝手知ったる様子でクッションの上に座ったさゆりは、私の部屋を見渡す。

 その顔は観察しているみたいで、何かを感じているのかもしれない。


「それでさっきも話したけど、何かこの家変な感じがしない?」


 私は彼女の前に冷たいお茶を置く。

 そうすれば喉が渇いていたのか、すぐに勢いよく飲みほした。どうやら気に入ったようで、満足げな顔をしている。

 お嬢様なのに、庶民な所もあるのは不思議だ。


「そうね。確かにいつもと何か違う気はするわ。」


 さゆりは何かを感じていても、その理由は分からないようで難しい顔をしている。

 私としてはいつも住んでいる家だから、早く何とかして欲しいのだが今日は無理なのか。


 このまま彼女が止まってくれるようだから、その点は安心している。

 しかし解決して欲しいというのが本音だ。


「今日は遅いだろから、もう寝る?しばらく家に泊まって、調査してくれれば私も嬉しいな。」


 もう眠いだろうから、前にさゆり用として準備しておいた布団を敷くと寝るように促す。

 既に眠そうにうとうとと頭を揺らしていた彼女は、抗う事なく横になった。


 そうすれば私もやる事は無くなったので、ベッドの上に倒れこむ。

 特に何かをそれ以上話さず、自然と私達は眠りにつこうとした。




 しかし数時間が経った時だろうが、下の方で小さいがはっきりとした声が聞こえてくる。


「理名、寝たの?」


 私は凄く眠かったけど、何かあったのかと思って返事をする。


「ねてないよ、どうして?」


「ちょっと聞きたい事があって。」


「なあに?」


 彼女の方を向いて私は話を続けた。


「有名な怖い話でね。こういう風に2人で寝てて、急にもう1人がコンビニに行こうっていうのがあるでしょ?」


「ああ。そんなのあったね。」


「もし理名だったら、一緒に行ってくれる?」


 その言葉に考える。

 私がその立場だったとして、今の様に眠かったらどうするだろうか。


 考えに考えて、私は答えを言う。


「ついていくんじゃない。さゆりの無理なお願いっていつもだし、文句は言うかもしれないけど。」


 それは本音だった。

 私の言葉にさゆりはくすくすと笑い、あらかじめ用意していたのかはっきりと言った。


「じゃあ今からコンビニ行きましょうか。」


 どういう意味なのだろうか。

 それをはかる事が出来なくて私は戸惑ってしまうが、言った手前起き上がる。


「わかったわかった。行こうか。でも何で?」


 今からコンビニに行く意味が分からなくて、少し嫌々だったけどベッドから降りた。

 私をずっと見ていたさゆりは、首を傾げる。


「そうすれば、あなたの今日の悩みも、解決出来るからかしら。」


 そして私が寝ていたベッドの下に視線を移すさゆりに、私は嫌な汗が止まらなかった。



 彼女が先程例え話として言っていたそれは、結局は寝ていたベッドの下に殺人鬼がいて、逃げるために適当な理由をつけて外へと出たという結末だ。

 今がそうなら、むしろ普通通りにしているさゆりが恐ろしい。



 しかし結局私は、さゆりの考えるままに動くしかなかったのだ。





 コンビニから返って来た後、ベッドの下をのぞいたが誰もいなかった。

 しかし埃一つない床に、私はとても嫌な想像をして、それからしばらくはベッドに寝る前に下をのぞくのが習慣となってしまう。




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