3.テケテケ
さゆりと一緒にいて、危険な目に遭ったことはたくさんある。
その中で本当に死ぬかと思ったのは、今のところ1度だけだ。
それは、怪談の収集を始めてすぐの事だった。
さゆりは始めたばかりで、数を集められていない事にいらいらしていた。
そのせいで一緒にいる私も、何だかいらいらする気持ちが移っていて2人の関係は上手くいっていなかった。
そんな中で、ある日さゆりが話しかけてきた。
「テケテケ?聞いた事あるけど、それが何?」
私は1人で帰ろうとしていたので、彼女に呼び止められて少し面倒だと思っていた。
だから素っ気無くしたのだが、気にせずさゆりは話を続ける。
「そう。ずいぶん昔だけど、ここらへんで列車の事故があったらしいの。理由は分からないけど、ちょうど腰のあたりで真っ二つになったって。しかもしばらくの間、上半身だけになっていた女の人は生きていて、助けてくれなかった周りの人を恨み続けて夜に追いかけてくるんだって。」
「へー。それで?そのテケテケが欲しくなったの?本当、見境ないよね。」
さっさと帰りたくて、彼女に冷たい返しをした。
しかし私以上に頑固で、自分の意見を通すさゆりが諦めたり落ち込んだりするわけがなく。
「だから今から行きましょうね。ちゃんと、理名のお母さまには話は通しているから。」
私が関わる事なく勝手に親に許可を取られていて、一緒に行くしか出来ない状況に持ち込まれていた。
それに文句はあったけど、言っても何かが変わるわけじゃないので本当に嫌だと思ったが、楽しそうなさゆりのあとについていった。
私達は、とある踏切の近くに来ていた。
そこはよく通る道で、知っている場所なのだが夜だからか嫌な感じがする。
さゆりが色々と準備をしているのは知っているけど、本当に不安だった。
今まで何とかなってはいたが、これからもそうとは限らない。
「ねえ、どのぐらいまでここにいるつもりなの?あんまり長い時間は嫌だからね。」
「分かっているわよ。今日は一応、見に来ただけだから。あと作戦を立てにね。」
だから早く帰るようにさゆりに説得しようとすると、彼女の方も同じ考えだったようでほっとする。
それならさっさと帰りたい。
居心地が悪くて、今度はもう帰ろうと言おうとする。
しかしその前に、予感では無い本当に悪いものが私たちの元に近づいていた。
「ねえ、さゆり。テケテケの名前の由来ってさ、移動している音がそう聞こえるからだよね。」
「そうらしいわね。」
「それって、今聞こえてる音がそうなんじゃないの?」
テケテケ
テケテケ
軽やかで、どこか間抜けな音。
それは、物凄いスピードで大きくなっていた。
私達が太刀打ち出来そうもない速さに、さすがのさゆりの顔も青ざめている。
恐らく彼女も、この状況は予測していなかったのだろう。
持ってきたものを探ってはいるけど、使えそうなものが見つからないみたいだ。
こうしている間にも、どんどん近づいてくるテケテケに私は涙目になる。
まさかこんな風に、人生を終えるとは思っていなかった。
天寿を全うとはいかないまでも、普通に平均寿命までは生きたかった。
あまりにも早すぎる死に、絶望して私はさゆりの服の裾を握って目を閉じる。
色々と面倒だと思ったり、イラついていたりしたけど、もし死ぬんだったら一緒が良かった。
そしてテケテケという音がすぐそばまで来た時、私は思い出す。
本当かどうかは知らないけど、確かテケテケには対処法があったはず。
それは呪文で、
「じ、地獄に帰れっ。」
私は願うようにして、思い出した呪文を言った。
もし間違っていたとしても、言わないよりはマシだと思いながら。
強い風が体を包み込み、私は自分が死んだと思った。
しかし痛みもなく、特に何かが変わったわけでもなかったので、恐る恐る目を開ける。
そうすると、同じように目を開いているさゆりと目が合った。
「えっと、もしかして助かった?」
「そう、みたいね。」
私達は、いつの間にかお互いの手を握っていた。
その手は震えていて、本当に危ない所だったのだと恐怖が体を包み込む。
「よ、良かった。良かった。」
「理名のおかげよ。本当にありがとう。」
さゆりはその目を潤ませて、私に抱き着いてきた。
その体のぬくもりは、もしも死んでいたら分からなかったのだと私は抱きしめ返す。
土壇場だったけど、呪文を思い出してそれが合っていて良かった。
私は感動して、今までのさゆりの事を全部許す。
その日から私は2人で生き残った感動を忘れられず、さゆりとまた仲良くし始めた。
そのせいで彼女の行動を止めるという大事な事を全くしなかった為、今の状態にしてしまったのを本当に後悔している。
しかも最近思うのだ。
まず危険な目にあったのは、さゆりのせいだったから絶交でもしておけば良かったのではないかと。
それでも今更だから諦めて、これからもさゆりと一緒に夜の街を怪談を探し続けるしかないのだろう。
その内、テケテケに再挑戦しようとか言い出しそうでとても怖い。
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