4章 俺はマルス。NPC。プレイヤーの彼女と結婚します!
21話 ユイ、ついにリアルでも女の子になる
マルスには、男であることをカミングアウトした。でも、ゲーム内で女の子として過ごすうちに、私、結野晴人の心は、どんどん女の子になっていった。
カミングアウトから2年半。高校卒業と大学進学を機に、私はついに手術に踏み切った。
「すごい、本当になくなってる……。」
「はい、そのための手術ですからね。」
長年連れ添ってきた相棒の「棒」がなくなったことに寂しさを感じないわけでもないが、それ以上に、女の子になれた喜びが強い。
「ごめんね、晴人。あんたを女の子に産んでやれなくて。」
「母さん、いいの。現代はこうやって後から性別を変えられるんだから。むしろ、私こそ男として生きていけなくてごめん。」
「謝らなくていいの。それが晴人の選んだ道なら、応援するわ。」
「ありがとう……。」
「ところで晴人。女の子になるなら、『晴人』って名前のままじゃあれだな。解明する名前は決めているのか?」
「うん。由衣と書いて、ユイ、にするよ。」
「ユイノユイか。ちょっと滑稽だけどいいのか?」
「いいの!」
「分かった。由衣、これからも家族として、よろしくな。」
こうして父さんと母さんに見守られながら性転換した俺は、結野由衣として大学に通うことになった。
それから一か月がたち、入学式が行われた。
終了後サークルのビラを貰いながらふらふらしていると、見知った顔が声をかけてきた。
「由衣!本当に女になったんだな。」
「啓太。うん。女の子になったよ。」
昔からの親友でゲーム内でもパーティーメンバー、みんなご存じケイタこと横井啓太である。
「いやー、可愛いな。その青い目はカラコン?」
「うん。」
「ってかなんか目が大きくなってないか?お前二重だったっけ。整形とかした?」
「ううん。美容整形は親の許可が下りなかったから、メイクで頑張った。春休みはずっとメイクの練習してたよ。」
「そっか。可愛いのはいいがナンパとか気をつけろよ?」
「うん。マルス一筋だからね、ナンパされないように気を付けるよ。」
啓太は以前と変わらずに接してくれる。それがどれだけ有難いか。
「まぁ、お前としてはマルスにその姿を見せたいんだよな。」
今夜のアップデートで、ゲーム内にインターネットに接続できるようになる。つまり、ケイタにマルスの隣でビデオ通話を立ち上げてもらえば、リアル世界にいる私と通話できるということだ。
「うん。今夜はよろしくね。」
「ああ。久しぶりのお前の頼みだ。問題ないさ。」
俺は、ケイタ君が表示してくれる画面にくぎ付けになっていた。
「マルスー、聞こえる?」
中からは金髪の女の子の声が聞こえる。こっちでの姿と多少違うが、ユイだとはっきりとわかる。
「聞こえるぞー。リアルとやらの姿もそれはそれで可愛いな。」
「ありがとうー!そっちでの姿に寄せるように化粧とか頑張ったんだよー!」
「ああ、頑張ったんだな。本当は男だったなんて信じられないぞ。」
「信じなくていいよー。どうせこれから私は女の子として生きていくんだし。」
「ああ、大変だろうけど応援するよ。」
最初に性転換すると説明を聞いた時は理解に時間がかかったが、一番強く思ったのは「俺のために性別を変えるなんてしなくても……。」と言うことだった。でも、ユイは「自分のためだから!」って言ってたから、応援することにした。本心なのはよくわかる。
「さて、約束通り外を見せるよ。」
そう言って家を出る。
「本当に高い建物が立ってるんだな。」
「うん。でもここらへんの建物はそんなに凄くないよ。この曲がり角を曲がって大通りに出ると、本当に凄いんだから。」
「じゃじゃーん!これがマルスに見せたかった景色。」
100万ドルの夜景、とまで言われる景色らしい。ドルというのは向こうの通貨の一つらしい。
すっごい。
すっごい。
遠くの建物から、近くの建物から、光が飛び込んでくる。
まぶしかったが、慣れてくると確かに美しい。
「これはユイが自慢するわけだな……。」
「でしょー。」
「そういえば、最初は光のインパクトで気づかなかったけど、建物一個一個が凄く大きくないか?」
「うん。高層ビルなんかは、マルス数十人分の高さがあるよ。」
「すごいな。世界樹より大きいんじゃないか?」
「うん。世界樹より大きいと思う。」
世界樹は、この前デートで行ったところだ。確かに綺麗な樹だったし、俺は凄く感動してたんだが、ユイはあまり感動してない様子だった。確かに、この景色を知ってると感動しないのかな。いや、建物と樹だからまた違うんだが。
「そうだ、マルス。女の子になる、っていう準備も整ったから、私から言わせてね。」
「何?」
「マルス。結婚してください!」
ぷ、プロポーズ……。
「しまった……。告白はユイからだったから、プロポーズは俺からしようと思ってたのに、先を越された……。」
「ふふ、積極的な女の子でごめんね!」
「ふふ、俺でよければこれからもよろしくお願いします!」
ユイが、ついに俺のお嫁さんになるんだ。
まぁずっとこっちの世界にいられるわけじゃないけど、それでも家庭とか築けるのかな。
「さて、ビデオ通話ができることだし、『娘さんをください』ってやつ、やってもらうからね♪」
「ひぇっ。嫌だなー。」
「まぁ私もマルスの家にあいさつに行かないとね。ずっとそっちの世界にはいられないのに妻になること、嫌がられるかもしれなくて怖いんだけど。」
「それはしょうがないよ。こっちの世界に来るにもお金がかかって、そのお金を稼ぐためには向こうの世界で働いたりしなきゃいけないんでしょ?」
「うん。まぁ今は学生だけどね。」
「出来る範囲でこっちに来てくれればいいから。歓迎するよ、ユイ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます