3章 NPCという存在の現実
15話 偽物のお祭り
慌ただしく準備は進み、ついに、お祭り当日がやってきた。
「お見合いかぁ……。」
「ふふふ、プレイヤーの可愛い子と俺は……。」
「レントさん、クライスさん、あくまでお見合いはおまけですからね。女の子が集まるかわかりませんし、場合によっては愛奈とユウだけでやってもらうかもしれませんよ?」
「その場合はみんなで愛奈ちゃんを取り合うだけだな!ガハハ。」
「ちょっと、ウチのことは取り合ってくれへんって?」
「わ、ユウちゃん、いつのまに?」
初登場のレントさんとクライスさん(NPC)は勿論、久しぶりな更新の上にキャラの薄いユウも皆さん「誰それ?」状態だと思うんだけど、私、ユイが居るパーティのハンマー使いの子。今まで明言してなかったけど、女の子ね。少なくとも、この世界では。
「ところで、リズちゃんは参加せえへんの?」
「リズちゃんは嫌みたいよ、好きな人がいるんだって。」
どんな人なのか聞いたら俯いて黙っちゃったけど、あの子どんな人が好きなんだろう?
しばらくの間、お祭りは穏便に進んでいた。しかし、マナーのいいプレイヤーばかりではないことを、私達は忘れていたみたいだった。
(ケイタ視点)
俺は、俺が声をかけてきてもらったプレイヤー二人の応対をしていた。
「なんだよ、NPCの祭りってこんなもんかよ。」
「こりゃ運営が特にイベント扱いしてねえわけだわ。」
「なんだと!」
「まあまあ待ってくださいよレントさん、下手に怒らせるとまずいんで。」
「そうか、ケイタ君。すまんな。」
「お、ケイタ、久しぶりだな。武器販売会ってそっちでやってるのか?」
「あ、ああ。ただあくまでNPCとの友好のためにやってるんです、そういう態度だと行かせるわけには……。」
「あ?俺らは武器販売会のために来たんだぞ?」
「NPCなんてただのプログラムと友好とか正気かよ。」
「そこからかよ……。このゲームのNPCは実際に生きてるって言ってるじゃないですか。」
「ケイタ君、プログラムってなんだい?」
「レントさん、その話はあとで。えっと、かっかしないでさお二人さん。とりあえずこれでも食べなよ。」
「お、うめえじゃねえか。」
「これ、愛奈ちゃんがこの前イベントで配ってたやつだよな?」
「ああ、でも今回その料理を作ったのは愛奈さんじゃない。彼だ。ジャンさーん!」
「はいはーい、ジャンと申します。そこにある建物の一階で料理店やってるから、よかったら食べに来てくださいな。」
「料理店?こんなところで?」
「もしかしてNPCか。」
「うん、NPCが作ったものだと褒めづらい?」
「そんなことはねえよ。店売りの料理だって旨かったしな。ただ、あれはそうプログラミングされてんだろ?」
「うーん、俺はそうは見えなかったけどな。ジャンさんが努力している姿を見てきたし。」
「ケイタ、だからそれはそういう風にプログラミングされてるんだって。」
「だからプログラミングって言わないでって……。」
「ケイタ、ちょっと耳貸しな。」
客のプレイヤーの一人が、俺に耳打ちする。
「このゲームのNPCは人間らしく感情豊かに作られている。だから、本物の感情がある、と思うのもわからんでもない。だがな、俺は見てきたんだよ。リアルに作りすぎたAIに人権を主張されて悩んで病んだ研究者を!AIに本気で依存して、AIが壊れたら狂った親友を!」
もはや耳打ちの意味がない音量で叫んでいた。
「お前、一体どういう……。」
「ケイタ、俺はここの運営にも知り合いがいる。間違いない。ここのNPCも、この世界も、プログラマが作ったAIが機械学習で作った、プログラムだよ。NPCに情を傾けすぎるな。警告だ。」
「自分で機械学習した結果できた人格は、もはや生きているって言っていいんじゃないか?」
「いや、言わない。」
「彼らは本当に心を持っているようにしか見えないんだけど?それなのに人間として認めないのか?」
「豚や牛にだって心はある。だが、人間じゃない。殺したって殺人罪にはならない。人間じゃない生き物にまで人権を認めてられねえんだよ。ましてや、あいつらは心を持ってすらいないんだぞ?」
「だからそんなこと……。」
だんだんと、言い返せなくなっていた。
NPCが心を持っていない証拠はない。心をプログラムで作り出す技術はあるのかもしれない。でも、心を持っている証拠もない。だとすると、NPCはプレイヤー全員から人間と認められる存在ではないのかもしれない。
俺達の計画は、甘すぎた。
このお祭りからは、早急に手を引こう。
このまま悪意を持ったプレイヤーと触れ合わせたら、NPCとプレイヤーの関係は、完全に壊れる。
俺は、ユイに事の顛末を話しに行った
以外にも、ユイはそれを受け入れた。
「ごめんね、マルス。これだけ手伝ってもらったのに……。」
今は、ユイは、関わったNPCのみんなに謝罪して回っている。人望のあるユイだから、怒られはしないけど、ちょっとがっかりしている人は多いようだった。
ただ、必死で事故処理に没頭するユイは、今にも壊れそうに見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます