2章 来訪者によって動き出す世界

8話 恋のライバル、登場?

 私、一条理沙は、第二北高校女子バレー部の1年生エースだ。今は地区大会決勝、絶対に負けられない試合だった。最終セット、得点は13-14。相手のマッチポイント。


相手のサーバーはジャンプフローターを打ってくる。今日は彼女に何本もエースを取られている。やむなく6人全員でレシーブに入る。


 なんとか上げた。でも、上げたのは1年生セッターの舞だ。トスはセッターじゃない人があげることになる。こういう時は、エースの私がスパイクを打つことになっている。


 私に高いトスが上がった。でも、私の目の前には、3枚ブロックが立ちはだかる。


 止められる。


 負ける。


 嫌だ。


 終わりたくない。


 バレーは、私の全て。バレー部は、私の仲間にして家族。


 ここで終わるわけにいかない!




 私は全ての力を振り絞って、跳んだ。その時、腱から、乾いた破裂音が聞こえた。




 私が倒れたため、このポイントはノーカウントになったが、私が退場したチームは、あっさりと、散った。




 この大会は終わった。でも、ケガを治して、リハビリを続ければ、またバレーを続けられる。そう思っていた。


 しかし、現実は非常だった。




「なんで……。なんで……。跳べない……」




 あの時の感覚がフラッシュバックして、どうしても跳べなかった。




 また跳べるようになるまで、なんどでも跳ぼう。そう思って練習に励んだ。でも、一向に跳べるようにはならなかった。それどころか、レシーブも、サーブも、トスも、今までできたことが全部、上手くできなくなっていた。




「理沙、大丈夫……?」


「舞、ごめん。もう、無理だよ。やっていけない。あんなに好きなバレーだったのに……」




 高1の1月、私は、バレー部を退部した。




 バレーの推薦で高校に入った私は、バレー部を退部した今、ただの成績の悪い問題児でしかなかった。でも、学校からは、特に責められることは無かった。赤点だらけだけど、進級もさせてくれるらしい。


それが、余計に辛かった。




 ウチの学校は、きまりでなにか一つ部には入らなくてはいけないらしい。でも、運動部は無理。かといって、文化部で真面目に頑張る気力も起きなかった。


週1活動の部活の中からやる気のないと評判の部活を探し、将棋同好会にたどり着いた。




「すみません。入部希望です」


「こんにちは。あー、同じクラスの一宮さんだよね。副会長の結野晴人です。今日会長休みだから、僕が対応するよ。副会長って言っても、この同好会5人しかいないんだけどね。あ、一宮さんが入れば6人か。


えっと、将棋の経験はある?」


「すみません、ないです……」


「わかった。じゃあコマの動かし方からね」




 結野君は、丁寧に説明してくれた。でも、全然頭に入ってこなかった。




「じゃあ実際にやりながら覚えてみようか。僕は飛車角金抜きでやるよ。僕もあんまり強くないから、多分一宮さん勝てると思うけど」




 結野君の陣地はすっかすかだった。結野君が言うには、本当にうまい人なら、この条件でも初心者を圧倒できるらしい。でも、なんか勝っちゃった……。


「ああ、負けちゃった……。もうちょっとで入玉できたのに……」


「いやでも難しいね将棋って……」




「勝ちたいな……」




 私は、なんでもいいから勝ちたかった。結野君は部活が休みの日も懇切丁寧に教えてくれて、囲いも覚えて、まあ初心者を脱却するくらいの強さにはなった。




 3月半ば。高1最後の部活。元からいる部員の一人、横井君と対戦していた。


「よし、これでここに効きが集中してるもんね!」


「やばいなこれ突破されるな……」


 私は当初居飛車の棒銀で攻めていたんだけど、上手く守られたから端を使っての雀刺しにシフトして、なんとか飛車が敵陣に入ることができた。


 そして、そのまま押し切って勝つことができた。




「やった!部員に勝った!」


「一条さん強くなったなぁ……」


「結野くんにいろいろ教えてもらったからね」


「ああ、でも自分で考えてさしてる感じがしたもん。才能あるよ」


「そうかな。頭はあんまりよくないんだけど、私」


「まあ勉強とは使う頭が違うからね」


「だねー。それに、勝ちたいっていう気持ちがあるからかな?何か今の私、なんでもいいから勝ちたいんだよね」


「なるほどねー。一条さんって、VRゲームってやったことある?」


「兄が機械は持ってるけど……。なんで?」


「あれってさ、運動神経がいい人や運動をやってた人の方が有利なんだよね。怪我しててもできるし、一条さんには向いてるかなって。なんでもいいなら勝ちたいならおすすめかも」


「なるほどねー。兄に借りてやってみようかな」


「お兄さんはなんてやつ持ってるの?」


「よく知らないんだけど、最近アナザーワールドコネクトオンラインだかなんだかを買ったって言ってた」


「AWCOじゃん!俺やってるそれ!」


「まじか」


「うん。結野もやってるぞ」


「へー……」


「どうした、結野に何か思うところでもあるのか?」


「な、何でもないよ!」


「そ、そうか……」




 その後、私はAWCOにはまり、自分用にもう一台機器を買うことになった。


 最初は兄にいろいろ教えてもらったりしながらやって、そのうちパーティーに入ってやったりしてるうちに、春休みが終わった。




 私は2年生になりました。結野君と同じクラスになって嬉しかったです。そう、私、結野君の事意識してるみたいなんです。


 これが恋なのかはよく分からないけど……。




 緊張しつつ結野くんに話しかけようとしたんだけど……。なんか、心ここに非ずな感じに見える……。


「結野君?」


「一条さん、今の結野はほっといてやってくれ。ちょっと話しかけられるような感じじゃないんだ……」


「そうなんだ……。結野君、何かあったの?」


「ああ、恋人に永遠に会えなくなってしまうかもしれないって言ってショック受けてる」


「恋人?結野君、付き合ってる人いたんだ?」


「うん。俺も昨日知ったんだけどな」


 ちょっと悔しいというか、胸が締め付けられたような気がします。


「昨日知ったって、最近付き合い始めたの?」


「そうみたい。」


「その相手の人、かわいい?」


「かわいくは……ないな」


「そうか。まあでも私みたいな大女よりはかわいいんじゃない?」


「多分その相手の方が大きいよ。180cmは確実に超えてるし」


「まじで」


「まあゲームの中での話だけどね。AWCOの中で付き合ってるみたいだよ」


「ゲーム内恋愛ってこと?」


「えっと……。まあそうだね」


「そっか。そうなんだ。うん」


「一条さん?おーい?どうしたー?」


「私、結野くんのことが好きみたい。ちょっと略奪、狙ってみようかな……」


「おい、やめとけ一条さん。まじで愛し合ってはいるみたいだから」


「でも、ゲーム内恋愛でしょ?現実でも接点がある私の方が有利なはずだもん!」


「まあ、確かに結野が付き合ってる人はリアルに姿は現さないだろうだけど……」


「そうだ、私AWCO初めて、LV49にまでなったんだよ!フレンドにならない?」


「え、まじで!始めたばかりでそれは凄すぎでしょ一条さん。俺らとLV30位しか違わないじゃん」


「そんなレベル高いんだ……。それって、全プレイヤーでもトップレベルなんじゃないの?」


「うん、これでも俺、闘技大会BEST16だからな」


「すっごい……。同じパーティーに入るのは夢のまた夢だね……」


「あ、でも結野はかなり強いデスペナ食らったはずだし、もしかしたら今の一条さんの方がレベル高いかもしれないよ」


「そうなんだ……」


「まあ俺今洞窟の中泊まり込みイベント中だから。イベント終わったら俺らとフレンド登録したり一緒に冒険したりしようぜ」


「わかった」




 そうして、今度の日曜日、結野君や横井君達パーティーと一緒に冒険することになった。




 結野君の恋人ってどんな子か分かんないけど、負けたくないな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る