7話 ユイちゃんの笑顔とかけがえのない日々に感謝を。(マルス視点に戻る)
「マルス!」
やってくる少女が、俺の名前を呼ぶ。あれはたしかにユイちゃんだ。
「ユ、ユイちゃん!?ユイちゃんなのか?」
「ごめんね、なかなか会えなくて。私もずっと会いたかった!」
ああ神様、これは夢じゃなかろうか。夢なら覚めないでくれ。
ほっぺたをつねるが、夢じゃないらしい。
「ユイちゃん!」
俺達はしばしの間、抱き合った。
「にしてもなぁ。ほんとよく生きてたなぁ。」
「だから言ったじゃん、プレイヤーは不死身なんだって。それより、マルスが酒飲んでるの珍しいね。」
「ああ、ジャンに誘われてな。酒でも飲めば少しは気が紛れると思ったんだ。いや、その、ユイちゃんはもうこの世にいないんだと思ってたから……。」
「もう、信じてくれてなかったんだぁ。私信用されてないなぁ。」
「ご、ごめんって。」
「でも、大幅に弱体化しちゃってさ、ここまで来るのにも凄い時間がかかったよ。それに、事情があって宿にも入れないしさぁ……。ほんときつかった。
でも、マルスに会えて、辛いことも全部ふっとんだよ!生きててよかった!」
「ユイちゃん……。
俺、この一週間、ずっと思ってたんだ。ユイちゃんに支えてもらって、ユイちゃんにいっぱい元気をもらったのに、俺はユイちゃんに何も返していない。ユイちゃんに迷惑かけただけだった。でも、そんな俺についてきてくれてありがとう。俺、もっともっと、ユイちゃんを大事にするから!ユイちゃんのために生きるから!」
「じゃあ、私と町のみんなのどっちかをとれっていったらどうする?」
「そ……それでも、ユイちゃんのために俺は……」
「無理しなくていいよ。困ってる人がいると放っておけなくて、町のみんなが大好きなマルス。そんなマルスだから、きっと私は好きになったんだよ。」
「ユイちゃん……。」
「でもね、私、うれしいな。今まで、私は、親からも友達からも、嫌われてはなかったけど、特別大事に思われたことは無かった。いないならいないでいい人でしかなかったの。
でもね、マルスは私を必要としてくれてた。私はマルスの役に立ててた。それがわかっただけで、わたしもう、十分だよ。」
「十分なんて言うなよ、ユイちゃん。俺、もっとユイちゃんを幸せにするから。一緒に幸せになろう?」
「そうだね。私ももっとマルスを幸せにするね。一緒に幸せになろっ。」
「あー、甘酸っぺえなあ……。」
「ああ、ジャンさん、放置してた……。ごめんねっ。」
「いいさ、久しぶりのマルスとの再会だもんな。そうだ、折角だから手料理でも作ってやれよ。」
「あ、あ……。それなんだけど……。」
ユイちゃんが真っ赤になった。
「プレイヤーってね、生き返る時に、『デスペナルティー』っていうので、ちょっと弱くなっちゃうんだよね。で、ステータスとかだけじゃなくて、スキル熟練度も下がっちゃって……。料理スキルも0になっちゃって……。えっと、で、私実は、えっと、もともとスキルなしだと料理はあんまり上手じゃなくって……。」
「ああ、ひどかったよな!」
「ジャ、ジャンさん!?」
「ああ、わりいわりい。どうする?もう一度学んでみるか?」
「もちろんです!ジャンさん、よろしくお願いします。」
「いいってことよ。またいつか、マルスに手料理作ってやれよ。」
「ユイちゃん……。俺なんかのためにそこまでしてくれて……。別に俺はその……。」
「私が!私がマルスに手料理を食べさせたいの!だからマルスは心配しなくていいの!またガンガン料理スキルのレベル上げて、おいしい料理作れるようになるんだから!」
ユイちゃんはこぶしを作って上に突き上げるようなしぐさをした。かわいい。
「ありがとう……!俺もユイちゃんのためになにかできること考えたいんだけど、そもそも俺ってユイちゃんのこと意外と知らないんだよね……。過去の事とか故郷の事とか、いろいろ教えてくれよ。少しずつでいいから。」
「うん、わかった。約束ね!」
「ああ!」
「マルスっ、」
そういって、ユイちゃんはふっと近づいて俺を見上げるような体勢になると、細い腕をからませてきた。いつになく積極的で、ドキドキする。
「幸せになろうね!」
「ああ!」
一度は失ったかと思った、大切な人の笑顔。これは、当たり前に見られるものじゃない。ユイちゃんも、俺も、生きていられることに感謝して、毎日を大切に生きていこう。
そして、ユイちゃんが俺にくれた幸せを、少しでも返していくんだ。
俺はマルス。NPC。プレイヤーの彼女ができました。 第一章 完
※ 2018/5/12 追記
ここまで読んでいただきありがとうございました!
本作の続きの投稿を開始いたします。
カクヨムでも投稿していきますが、小説家になろう様、マグネット様でも投稿させていただいています。
特にマグネット様では先行更新するので、早く続きを読みたいと思ってくださった方は是非ご覧ください。
https://www.magnet-novels.com/novels/50714
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