4話 ユイちゃんの思い出

 その後、町の復興のために俺は懸命に働いた。そして、夜になると、魔力水の滝へ行き、ユイちゃんを偲んだ。もしかしたら、ユイちゃんがひょっこり現れるんじゃないか……。

 しかし、一週間たっても、ユイちゃんが現れることはなかった。


「よう、マルス、今日はちょっと飲みに行かねえか」

「悪い、ジャン。ちょっとそういう気分じゃねえんだ」

「それは、やっぱりユイちゃんのこと気にしてるのか?」

「ああ、そうだよ」

「じゃあ、思ってること全部俺にぶちまけちまいな。酒飲んで、思いっきり泣け。少しは気持ちも楽になんだろ」

「……。そうかもな。そうさせてもらうよ、ありがとな、ジャン」

「いいってことよ、マルス」


 今でも俺は思い出す。ユイちゃんと過ごした数々の日々を。初めてであったのは、副業で冒険者を始めた時、はぐれの前衛だった俺は、はぐれのユイちゃんに声をかけたんだ。一緒に組み始めて、時には下っ端騎士に任される残業を手伝ってくれることもあった。

 俺は視界に入った人間はできる限り助けてあげたいと思ってしまうたちだ。みんなの力になりたかった。

 でも、それが返って人に迷惑をかけてしまうこともあった。

 そんな俺を、バカにする人も多かった。そんな俺を、ユイちゃんは何度も励ましてくれた。

「確かにマルスはお人よしで不器用だと思う。でも、そんなマルスをこそ、私は好きになったんだよ」

 そう言って微笑んでくれたユイちゃんの顔が忘れられない。

「無理しすぎないでね」といいながら、料理スキルで作ってくれたはちみつパイの味は今でも忘れない。きっとあれは、俺が疲れがたまっているのを察して、ユイちゃんがわざわざ疲労回復効果のあるイエローはちみつを採取してきてくれたんだと思う。

 俺によりそってくれたユイちゃんに、まだ俺はなにも返せていない。これからだったんだ。これから、ユイちゃんのために尽くすつもりだったんだ。なのに、なんで……。


 そんな俺のとりとめのない話を、ジャンは嫌な顔せず聞いてくれた。


「そうか……。いい子だったもんな。ユイちゃん。こんなかわいくて優しい子に惚れられるなんて、マルスはいいなぁと思ったものだよ」

「ああ、俺なんかにはもったいない彼女だった。なのに……」

「なあ、マルス。ユイちゃんがお前に一番望んでいたことって、なんだと思う?」

「なんだろうな。俺は女心とか分かってやれないし、ユイちゃんが望むようなことなんにもしてやれなかったろうからな」

「それはな、お前が幸せになることだよ」

「えっ?」

「俺はユイちゃんと少し話をして、よく分かったことが有る。ユイちゃんはほんとにお前の事を一番に考えてたってことだ。口を開けばお前の話ばかり。お前のために何ができるか、いつも考えてた」

「そうか……。そうなのか……。

そういえばぁ、ジャンってユイちゃんとそんなに話したことあったっけか」

「ああ、実は料理スキルとかを教えてくれって頼まれてな。いろいろ教えたんだよ」

ジャンは料理スキルと教導スキルを持っている。ジャンに教われば、確かに上達は早かっただろう。

「ユイちゃん、最初はひどいもんだったんだぜ、料理。手は切るわ、野菜を切らせればまな板からこぼれるわ、火加減は分かってないわ、もうめちゃくちゃだったんだよ。でもな、泣き言一つ言わずに俺の指導についてきた。マルスにおいしいもの食べさせてあげるんだって笑って頑張ってた。そうこうするうちに、料理スキルが芽生えるまでになったんだよ」

 そうだったのか。てっきり最初から料理スキルを持ってるんだと思ってた。ユイちゃんは料理とかそういう家庭的なことが得意そうなイメージがあったけど、違ったんだ。俺のために練習してくれてたんだ。

「ほらよ、これは俺が作ったはちみつパイだ。野郎が作ったもので申し訳ねえが、これでもユイに料理を教えたのは俺だからな。食えよ」

「うん。もにゅもにゅもにゅ……。ああ、確かに同じ味だぁ。くそ、なんでおまえなんかにユイちゃんと同じ味が出せるんだよ……」

「いや、だから俺がユイちゃんにレシピ教えたんだからな。同じ味に決まってんだろ」

「そうだな……」


「マルス、ユイちゃんはお前が悲しみ続ける事なんて望んでねぇ。いい加減立ち直れよ。もちろん、ユイちゃんの事を忘れろとは言わねえ。覚えてろ。俺らが忘れない限り、ユイちゃんは俺らの中で生き続ける」

「ジャン……」

「そして次の幸せを見つけていくんだ。それがユイちゃんが最も喜ぶことだよ」

「ジャン、そうだなぁ……」

「それにな、マルス。来訪者ってのは不死身だって噂もあるだろ?もしかしたら、今頃どっかで元気にやってるかもしれないだろ」

「まあ都市伝説みたいなものだけどな。あ、でもそうだなぁ……。そうだったらいいなぁ……」


 俺達は、酒屋を出て、魔力水の滝の方まで歩いて行った。天を仰ぐと、満天の星空が輝いている。

「ああ、きれいな星空だなぁ。なぁ、マルス」

「ああぁ……。ユイたぁんともぉ、いっしょにみあげたぁなぁぁ……」

「おい、マルス、酔っ払い過ぎだぞお前。酒に強いお前がここまで酔っ払うなんて珍しいこともあるもんだなぁ」

「ほうだねぇ……ジャン……」

 俺はすっかり酔っちまったらしい。これは明日は二日酔いかなぁ。

 その時、道の向こうから走ってくる人影が見えた。いつもユイちゃんがやってくる方角だった。金髪で青い目の女の子のようだった。なんかユイちゃんを思い出すなぁ。

 ってぇええ! ちょっと待って、あれユイちゃんじゃねえか!?

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