第10話
今日は、高校生になって初めての休日。僕は、なんとなく河原に行きたくなった。河原は、僕の家からそう遠くない。かといって近いわけでもないけど。僕は、今日の雲ひとつない青空を歩き河原に向かう。休日だからなのか、多くの人に会う。男も女も。僕は、なるべく顔を合わせないよう早足で河原へ急いだ。
河原には誰もいなかった。日の光が川を反射し、綺麗だった。魚の鱗のように。僕は、河原に寝そべり空を見上げてた。そして思い出す。妹のことを。もし妹が生きていたら、中学校に入学して新しい友達を作っていたのだろうと。好きな人ができて彼氏を作っていたのだろう。部活に入って誰かとともに目標に向かって事をこなす大切さを知るのだろう。
「遥」
僕は、いつのまにか妹の名前を言っていた。
「遥って元カノさん?」
僕は、妹のことを考えていると僕の顔を覗き込むように鮎川さんがいた。
「わっ」
僕は、驚きのあまり声が出てしまった。
「そっか、最上くんかっこいいもんね。彼女さんがいたのも当たり前だよね」
鮎川さんは、どこか誤解していた。でも僕は、否定できなかった。それは、単に女性恐怖症だからではない。妹が大切な人だからだ。
「ねえ、どんな人だったの?教えてよ」
鮎川さんは僕の隣に寝そべってくる。僕は少し距離を取り、目を瞑る。
「ねえ、無視は酷いよ。答えて」
鮎川さんはまるで僕を彼氏として扱っているような感じがした。
空はいつのまにか雲に覆われていた。もう少しで雨が降るのではと疑うほどに。鮎川さんは、僕の耳で散々騒いだ後疲れたのか寝てしまったらしい。僕にとっては、どうでもいいのだが、このまま帰ってしまうのも気が引けた。もし、雨が降ってきて鮎川さんが風邪をひいてしまったら確実に僕のせいにされるだろうと。突然、僕の頬に水滴がついた。それはとても冷たくどこか暖かかった。どんどんその勢力は増していき、小雨どころではなかった。
「あれ、雨」
鮎川さんは、雨の音に気づいたのか起きた。
「傘持っててよかった」
鮎川さんはカバンの中から折り畳み傘を取り出し開く。
「最上くん、こっちにおいで。風邪ひいちゃうよ」
鮎川さんは僕の腕を掴み、傘に入れてくれた。僕は、今まで以上の震えを感じた。
「あの橋の下に行こう?そっちなら、この小さい傘は必要なくなるから」
鮎川さんの肩をよく見ると傘に入っていなかった。もしかしたら僕のために……。僕は、非常に申し訳なさ感じた。
橋の下に行く途中、台風がきているわけでもないのに強風が吹き始めた。その強風は鮎川さんの折り畳み傘を壊すような勢いだ。折り畳み傘は後ろに風を受けそのまま引っ張られた。僕は、入れてもらった恩を返すわけではないが、傘の持ち手を掴む。だが、鮎川さんが体勢を崩し、僕もドミノのように倒れた。それは、僕が覆いかぶさるように倒れてしまいお互い頭を打った。
「痛っ」
僕は、痛さのあまり叫んだが、違和感を感じた。僕は先ほど鮎川さんの上に覆いかぶさった形でいたのに今は下にいる。どういうことだ。
「あれ、私、最上くんになってない?」
目の前にのあるはず僕の体であるはずなのに声が鮎川さんになっている。
「入れ替わったのか」
僕は少し上の方に重みを感じながら呟いていた。
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