第9話
僕は、鮎川さんが泣き止むまで、そばにいた。さすがに駅のホーム内にいるのも気が引けたため、近くの店に入った。店内は、何人かの学生たちで席が埋まっていた。僕は、かろうじて空いていた席に座ってドリンクを頼んだ。
「ごめんね。つきあわせちゃって」
鮎川さんは、一時間ぐらい泣いたあと、まだ涙目になりながらも僕に謝った。
「だ、大丈夫だから」
僕は、また正気に戻り、鮎川さんと距離をとる。鮎川さんは、ひどく驚いていたが、ふんわりと笑っていた。
「ありがとう。もう、いいよ」
鮎川さんは、帰り支度を始める。僕は頷き、ドリンクを片付けた。
次の日、僕が教室にはいると前の席の誰かをたくさんの人が囲んでいた。それは、昨日僕に涙を見せた、鮎川さんだった。
「おはよう、最上くん」
八代くんは、自分の席から、手招きをしている。僕は、八代くんの席へ急ぐ。
「おはよう。どうしたの?」
「僕、今知ったんだけど鮎川さんね読者モデルやってるんだって」
八代くんは、僕の耳元で教えてくれた。だが、僕にとってはどうでもいいことだ。
「だから可愛いのかってみんな言ってる」
僕は適当に頷き、席に座った。
「今日は、何部見る?」
放課後、八代くんが部活見学にまた誘ってくれた。
「この学校、強制らしいよ」
僕は、その言葉を聞き震えた。中学の頃は、強制ではなかったのに。
「今日は、文化部にする?文化部は、演劇部、吹奏楽部、合唱部、写真部、茶道部、華道部だって。でも、今日は写真部と華道部は休みらしい」
「茶道部に見にいきたい」
僕は、特に入りたいという部活はないが、楽そうだからという点で茶道部にしてみた。
「じゃあ、茶道部に行こう」
八代くんは、どこかはしゃいでいた。
茶道部の部室は、同窓会館で行われていた。そこには、五、六人程度しかいない。僕たちが、部室に来ると、先輩たちの顔が明るくなっていった。
「入部希望者?うれしい」
僕は、違うという雰囲気になれず、押し黙っていた。
「これで二人目ね。君は?」
「僕は、違う部活に決めてまして」
八代くんは、遠慮がちに答えていた。
僕は、ある男子の先輩に誘導されて、奥の方へ行った。そこには、先客がいたらしく、その人は見覚えのある女子だった。
「あれ、最上くんも茶道部入るの?」
僕は、飛び上がりそうなのを我慢しながら、首を横に振った。
「私ね、読モの仕事があるから、運動部とかは入れないんだ。茶道部と華道部を掛け持ちしようかと思っているの」
鮎川さんは、ひとりでに喋り出した。時々、先輩が立ててくれたであろう抹茶を飲みながら。
「あれ、雛ちゃんこの子と同じクラス?」
「はい。最上隼人くんです」
鮎川さんは、初めてあったのにもかかわらず、もう打ち解けていた。そして……
「よろしくね。隼人くん」
僕は、一歩下がった。
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