第5話 ウォシュレット(1話完結)

 藤原と水野は二人の隠れ家であるマンションの一室で最終確認をしていた。二人はその道では大変有名な殺し屋コンビだ。今回もある政治家から依頼された殺しを実行するための最終確認である。殺しのターゲットは東野という男。「コージーファイナンス」という名の消費者金融の社長だ。かなり悪どいことをしているワルなのだが、政治家や財界人などとのコネクションを作り、まるで街の名士のように振る舞っている。そういう奴は大概敵が多い。今回の依頼者もはじめは上手く利用していたのだが、だんだん邪魔になってきたため消してしまうことにしたようだ。


 今回実行するのは藤原だ。殺しと言っても、銃やナイフを持ち、ターゲットを待ち構えて殺るような機会は減っている。もっとスマートに証拠の残らないやり方でおこなう事が主流になっているのだ。


 東野について色々調べたがかなり用心深い男のようだ。性格も変わっており、情緒不安定なところもあるらしい。それと比例してなのか関係ないのかはわからないが、性癖もかなり特殊なようだ。そういう特徴も踏まえて、今回はトイレのウォシュレットを利用することにした。これが一番怪しまれることが少ないのだ。


 方法はこうだ。清掃員としてターゲットの事務所に侵入し、社長室横にあるトイレに向かう。そのトイレのウォシュレットの水が出る部分に、特別に配合した毒を塗る。この毒が肛門から体内に入ると、細胞を破壊し内臓を死滅させていく。ほんの二日ほどで毒が体中に広がり死に追い込むと言うものだ。またウォシュレットに残った毒は、トイレの自動洗浄機能により綺麗に流される。全く証拠も残らないのだ。


 今回実行するトイレはターゲットである東野しか利用しない。そういったターゲットしか利用しないトイレがある場合は非常に有効的な殺しだ。


 最終確認を終えて、藤原は部屋を出て行った。水野はこの部屋で藤原からの報告を待つ。


 三時間後、藤原から水野の携帯へ連絡があった。

「無事にウォシュレットに毒を仕込んだ。じゃあ後は頼むぞ」

 水野は了承した旨を伝えて電話を切った。二人のルールとして、殺しの実行した者は、足が着かないように一週間ほど香港やハワイなどに高飛びすることにしている。


 藤原が実行してから二日後。東野が病院に運ばれたという連絡を水野はもらった。コージーファイナンスの社員の中にスパイを投入しているのだ。


 そしてそれから二日後、また水野の携帯電話が鳴った。同じスパイ社員からだ。

「東野が死にました。かなりひどい死に方だったようです。口がタダレ始めて、皮膚が死滅しそれが二日の間に全身に広がり苦痛にもんどり打って死んだそうです」


「わかった。連絡をありがとう」

 水野は静かに携帯電話を切って、スーツのうちポケットに入れた。それと同時に頭の中で疑問が広がった。「ってか、口からタダレ始めたって、東野はトイレで何してたん」

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